放課後ーー
忙しい麗香は今日も用事。
2日連続で一緒に帰れなかったことに
一抹の寂しさを感じつつ、
私は約束通り谷くんの席に向かった。
「谷くん」
心臓がドキドキ言ってる。
だって、男子から頼みごとなんてされるの初めてだもん。
面倒ごと押しつけられることはいっぱいあったけど、谷くんの場合そういう感じじゃない。
「まだ人いるし、外行こうぜ。」
「う、うん…」
人前じゃできない話!?
まさか…
まさか!告白!!?
朝から頭の奥底で考えていた可能性が一気に一番上まで急浮上した。
人気のない自習室に入り、谷くんは私の方を振り向いた。
「それで、頼みっていうのが…」
ドキドキ…
ドキドキ…
まだ、心の準備が…
それに、昨日初めて話したばっかりなのに…
なんて応えれば…!?
「俺、友達がほしいんだ。」
「はい?」
トモダチ…??
谷くんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「なんかわからんけど、高校に入ってから友達できなくて。」
「……」
私はポカンと間抜けな顔で口を開ける。
「中学のときはケンカしてれば、なんだかんだ仲良いやつができたんだ。
でも、そんなので仲良くなったやつらは、結局悪い道にどんどん進んでいって…
ケンカとかじゃなくて、まともに友達作ろうと思ってヤンキーやめたんだ。」
「な、なにその可愛い理由…」
「は!?可愛くねぇだろ!」
「いや、まともな友達ほしくてヤンキーやめるってめちゃめちゃ可愛いよ。」
「うるせぇな…」
谷くんは赤かった顔をさらに赤くして、
私からそらした。
その姿にさえきゅんとする。
告白だと勘違いしていた自分の自意識過剰ぶりに恥ずかしくなった。
「だから…協力してほしいんだ。
都、友達多いだろ?」
「っふぇ!!?」
「な、なんだよ…」
「いや、いきなり名前呼びするから…」
小学校卒業以来、男子に名前呼びなんてされたのほぼ初なんですけど!
「やだった?」
「いやでは…ないけど。」
元ヤンだからなのか、コミュ力が低いからなのか、友達できないって言うくせに距離感が近い。
「俺も都の目標達成に協力するから。
なんかないの?」
「なんかって…あ。」
一瞬考えてすぐに出てきた目標。
「高校生になったら…
彼氏ほしいって思ってた。」
「……」
谷くんは一瞬驚いた表情を浮かべると、
何かを考えるように数秒沈黙した。
「よし。
都は俺に友達ができるようアドバイスする。
俺は都に彼氏ができるようアドバイスする。
男友達紹介とかして出会いも提供するし。
どう?」
なんだか、私の方がメリット大きいような気がするんだけど…
メガネの奥の瞳を輝かせながら、
私に尋ねる谷くんを見て、だんだん笑いが込み上げてくる。
「…ふふっ…アハハ!」
「なに笑ってんだよ。」
「ごめんっ…うん、おもしろそう。
やろう!」
男子の貴重な意見が間近に聞けるのはたしかに魅力的だけど、
私は何より谷くんと友達になりたいと思った。
素直で一生懸命な谷くんと何かを共有できたら、毎日が楽しくなりそうだ。
「ありがとう。
じゃあ明日からよろしくな。都。」
「うんっ!
あ、私も谷くんのこと名前で呼ぶよ。
匡平?匡平くん?なんて呼ばれてた?」
谷くんは私の目をまっすぐ見つめ、
不敵な笑顔を浮かべた。
「匡」
その日から、私と匡それぞれの目標達成に向けた協力が始まった。



