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「…そろそろ戻ろっか。
匡の宣伝にみんな期待してるし…」

「…ああ。」

匡は小さくため息をつくと、
渋々といった感じで椅子から立ち上がった。

「私も手伝うし!」

「行きたくねぇな」

「アハハ…そう言わずに!」

「もっと都と二人でいたい。」

ドキッ…

そうはっきり言われると、つい「じゃあもう少し…」って言いそうになる。

生まれた欲求を理性が抑え込む。

「だ、ダメだよ…
匡目立つし、宣伝してないとサボってたってバレちゃう。」

「…わかってるよ。」

ドアの方へ歩き出した匡に付いていく。

教室から出る直前、いきなり振り返り、
私の唇に触れるようなキスをした。

「ちょっ…!///」

「ほんとは今すぐめちゃめちゃにキスしたいの我慢してんだからな。」

「へっ変態!!」


匡はイタズラっぽく笑うと、
私の手を引いて文化祭の中を歩き出した。


「ちょっ、離して!!」

「やだよ」

開放エリアに入り、どんどん人が増えていく。

文化祭で手を繋いでいる不良とギャル(?)を
周りが二度見するのは必然だ。


恥ずかしすぎる…!
これじゃあバカップルじゃん!

どうか知り合いに見られませんように…

「あ、匡。」

こういうときに限って、速攻で見つかる。

「祐介」

「手なんか繋いじゃって。
もしやさっきの"彼女にする宣言"達成済み?」

「まぁな。」

「っ匡!そろそろ離して…!」

「まだ。」

「匡、束縛男は嫌われるぞ。」

「年中別の女と遊んでる祐介のアドバイスは参考にしない。」

「ハハッ、ひっど!」

祐介くんはしばらく軽快に笑っていたが、
「あ、やべ。忘れてた。」
と言って振り返った。


「えっ太一くん!?」

太一くんがうちの高校の制服を着た男子生徒と睨み合っている。


こんな喧嘩寸前の現場を背景にしてたなんて…!


「太一やめとけ~」

ゆるーく声をかける祐介くん。

「だってコイツから絡んできたんだぞ。
ムカつかねぇのかよ。」

「俺はお前と違って大人だからな。」

「俺の方が誕生日早いだろ!」

今度は祐介くんと太一くんが言い争いになりそうなのを、匡が言葉で制す。


「祐介、なにがあった?」

「太一のこと見て、『バカっぽい』って言ったのが聞こえたんだよ。」

「なんで俺だけなんだよ!
お前も隣にいただろ!」


「おい、俺のこと無視するんじゃねぇ」

太一くんと向かい合っていた男子生徒がこちらに顔を覗かせた。

「あっ!」

私の声に反応し、みんなが一斉に私を見る。

「げ、谷とあのときの女…」

「匡に絡まれてた先輩…」

「え、誰だっけ?」


匡は悪気無さそうにきょとんとした。