私の顔を優しく撫でる手。

首から離した唇が私の顔のすぐそばにある。

決して触れないけれど、
限りなく近い距離。


「匡は…怖くないの?」

「何が?」

「好きな人に…嫌われるのが…。」

「…」

「そんなに想いを正直に伝えて、
嫌われるのが怖くないの?」


匡の瞳は動じることなく私の瞳を見つめ返している。

息がかかるほどの距離。


「怖いよ。」


意外な答えに私は言葉をつまらせた。


「怖いけど…嫌われるより怖いこともある。
明日、間違いなく都に会える保証なんてないのに
怖がって逃げたらもっと後悔する。」

「っ」


匡の言葉にハッとなった自分に気づく。

そうだ。
明日の保証なんて誰にもない…


「受けいれてくれる限り、俺は都のそばにいたい。」


不思議と涙が込み上げる。


「好きだよ」


何度も何度も伝えてくれる匡の気持ち。

何度も何度も、私を幸せでいっぱいにしていく。



"返したい"

心の底からそう思った。


こんなにも私を幸せな気持ちにしてくれる人に、
何か返したい。

喜んでほしい。

私が…匡を幸せにしたい。


私はそっと匡の手を握った。

「私、バカだね。
それとも考えすぎだったのかな。」


匡は何も言わず私の言葉を待つ。


「終わりがあるのは恋愛だけじゃないのに。

そばにいたい。
少しでも長く。

だから…私と付き合ってください…っ」


匡は目を細めて、今まで見たことがないくらいの柔らかな笑顔を浮かべた。


「ああ」



そっと私の頬を撫でる手。

私は受け入れるように目を閉じた。


窓の外から文化祭の賑わいが漏れ聞こえる。
別世界にいるような静かな空き教室ーー


限りなく近かった距離が0になり、
その日、私たちは2回目のキスをした。