「匡!?どこ行くの?」

「お前が黙ってるから、拷問でもしよっかなって」

「えっ!?」

不安げになった私の顔を見て、匡はからかうように笑った。

「冗談だよ。」


開放している校舎のエリアと離れた
備品置き場の棟に入る。

適当な教室を覗き、誰もいないことを確認すると、私を中へ招き入れた。


「何…?」

やっぱり…
金髪の匡は落ち着かない。

私は匡から顔をそらした。


「俺が金髪にしたから引いてんの?」

「引…!?違うよ!
っただ…」

「『ただ』?」


私は口をつぐんだ。

今思っていること、言葉にしたら嫌われてしまわないだろうか。

強欲な女だと…


「都」


匡は優しく私の手をとった。

本当に優しく。

綿に触れるように柔らかく。

いつでも振り払って逃げられる
けれど、それを許さないような…


「嫌になったなら言え。
髪が嫌なら今すぐ染め直したって、坊主にしたっていい。」

「ぼ、坊主…ブッ…」

「笑うな。真面目に話してんのに。」

「ごめん…。はぁ…」


ため息をつくと、匡は私の手をぎゅっと握った。

痛いくらい
けれど、すがりつくように…


「バカね。私が匡を嫌になるはずないよ。」

「……。」

「逆だよ。
私と麗香しか知らなかった匡が
みんなに知られるのがちょっとだけ嫌なの。」

「え…」

「みんなが匡の良いところに気づいて、
私たちから離れていくのが怖い。
私たちより楽しいと思うところに、
私より素敵な女の子のところに、
行ってしまうんじゃないかって不安なの。」


恋愛が怖い。

終わりがあるものがイヤ。

ずっと3人で楽しかったあのときのままでよかった。

よかったのに…


「どこにも行かねぇって。」

「……。」

「どうすれば伝わんのかな。
俺がどんだけ都を好きか。」

「そんなの…」
伝わってるよ。



「好きだ」


「っ…」


「好きだ、都」


ほんと、まっすぐだ…

匡には裏切られる怖さとかないのかな。

バカみたいに私のこと信じて、
疑う私がもっとバカみたいだ。


「今日、お前が可愛すぎて気が気じゃない。」

「なっ!?」

「可愛いよ」


甘い言葉を呟き、私との距離を詰める匡。


首筋の生温かい感触。


「き、匡…!ダメだってば…」

「……」

「っきょ…う…」

「お前が悪い。
可愛い格好で、他の男と話してたら嫉妬くらいする。」

「かっ可愛くなんてないよ…
ギャルだし…。私こういうの似合わなくて…」

「可愛い。」


匡は当たり前のように言い切る。


「都は今まで会った誰より可愛い。」

「っ…」


この人、おかしいんじゃないか…!?
目が悪い?視力腐ってる?

どうしてそんなに…
言い切れるの?

怖くないの?

どうして…