翌日ーー


登校して、ホームルーム前のにぎわう教室を見渡す。

昨日の席に、たしかに谷くんは座っていた。

普通にスマホいじってるだけなのに…
なんかめっちゃ影薄い!!

昨日、目が合ったときは存在感あったのにな。


自分の席にカバンを置き、麗香に軽く挨拶をしたあと、私は谷くんの席に向かった。


「おはよう。」

「…」

谷くんは驚いたような顔で私を見上げ、
「はよ。」
と、挨拶を返してくれた。


「昨日、バイクでお出掛けしたの?」

私はにっこり笑って、両手でバイクのハンドルを回すジェスチャーをする。

「おいっ!でかい声で言うな。」

「あっ…」

そう言えば、内緒にする約束だったんだ…

麗香に意気揚々と昨日の話をする前でよかった。


「ごめんごめん!」

「ドジなやつ」


ドジって言うなら、昨日慌てまくって自ら元ヤンであることを告白した谷くんの方が当てはまる気がする。

そう思ったけど、とりあえず口をつぐむ。


「ていうか、今日も話しかけてくるなんて思わなかった。」

「アハハっ、ネガティブだな。
せっかく昨日仲良くなれたんだから、勢い大事だよ。」

「勢い……」

谷くんは何かを考えるように一瞬沈黙した。

「谷くん?」

「今日の放課後、時間ある?」

「え?放課後?
うん、部活入ってないから暇だけど。」

「ちょっと教室残ってくんない?
頼みがある。」

「えっ」


その時、始業のチャイムが鳴り、立ち歩いていたクラスメイトがノロノロと自分の席に戻り始めた。


「じゃあ放課後」


谷くんは一方的にそう言って、会話を終わらせた。

私も仕方なく自分の席に戻る。



頼み?

谷くんの低い真剣な声が妙に耳に残る。

なんか…緊張する。


私は胸の高鳴りを気のせいだと思いながら放課後を待った。