数分後、私が匡から顔をそらすと、
キスの嵐は収まった。


「な…なんで…!」

「あー、悪い。ムラッとして。」

「む…!?」

「好きな女が嫉妬してるなんて、
ムラッとするに決まってんだろ。
むしろキスでとどめた俺を誉めてくれ。」

「す、すごーい」

「…っぷ…アホか…!」


匡が…

笑った…。


私の目からまた涙が溢れだす。

匡は優しく私の涙をぬぐった。


「なに泣いてんだよ…」

「っ…久々に…笑って…くれて…」

匡は覚悟したように私の手をぎゅっと握った。

「…教えろ。都の本当の気持ち。
中途半端な答えはもういらない。」

「うん…。」


私は頬から涙の痕跡がなくなったことを確かめて、匡を見上げた。

ホント、元ヤンとは思えないくらい純粋な瞳だよね。

私はこの目が好きだ。


「私ね…恋愛が怖いんだ。」



私は自分の正直な気持ちをちゃんと話した。

過去の経験から、終わりのある恋愛が怖いこと。

匡との今までの関係が本当に楽しかったこと。

匡に感じていた恋心。


「私だって!匡にムラムラしてたよ!!」

「ブハ!なに言ってんの、お前!」

「あ、ハハ…匡を傷つけた償いだよ。」

「はぁ」


匡は大きなため息をついて、私を抱き締めた。

広い体に包まれ、不思議と安心する。


「嬉しい」


そう呟き、
匡が私の肩に顔を埋めているのが分かる。


「俺の100分の1でもいい。
俺のことを好きで、ずっと一緒にいたいと思ってくれたんだろ。」

私は黙って頷いた。

私の匡への恋心は100分の1より確実に大きいはずだけど、今は何も言わなかった。

「今、恋人にならなくてもいい。
俺の気持ちがそう簡単に変わらないってわかるまで見ててほしい。」

「…匡はどうしてそんなに私のこと…」

「俺に笑ったから。」


思いがけない答えに、私は匡と抱き締めあっていた距離を離してその顔を覗いた。

真剣な顔だ。

でも、さっきまでの怖い目じゃなかった。

いつもの匡だ…。


「元ヤンだって知っても、
友達できない情けないやつだって知っても、
都は心から笑ってくれた。」

「そんなの…普通で…」

「普通じゃないよ。」


そう固く言い切る匡の言葉に、私はそれ以上何も言えなくなる。


匡の中学時代のことはほとんどわからない。

でも、やっぱり不良だったから
嫌な思いをしたり、させたりしてきたんだろうか。

誰かに心から笑顔を向けられない日々を…


私は再び匡を抱き締めた。


間下をやっつけてくれたあと、
抱き締め返すことができなかったな、と
今思い出す。


「私、本当に…」


それ以上は涙が溢れてうまく言葉が出なかった。




「好きだ。都。」


私、本当に匡が好きなの。

匡とずっと一緒にいたいと思ってるの。


私の想いに応えるように、匡はもう一度私の唇にキスをした。