「…元ヤン?」

「……」


目の前の内気そうなクラスメイトは
青い顔をしながらうつむいている。


「元…ヤン」

「…」

「元…ヤン…………ヤングコーン?」

「ヤンキーだよ!!」

「だよねー…」


うつむいていた顔を私に向けると、バッチリ目があった。


切れ長の目。

一見目付き悪く見えるけど、
まつげ長いし、かなり美形なのでは…?


「あ~、そか。ヤンキー。元ヤンキー。え?」

目の前のおとなしそうな男子には似つかわしくない言葉に思考が追い付かない。

「お前、画面見たんじゃないのか?」

「見てないけど…」

「なっ!!」


「ぬぁ~!」と悔しそうな声をあげて、
谷くんは前髪をぐしゃぐしゃにした。


なんか…愉快な人…?

全然暗くなんてなくない?

自分で墓穴掘って、自分で飛び込んでる…


私は悔しがる谷くんの姿を見て思わずクスッと笑ってしまった。


「な、何…」

「ふふっ…谷くんっておもしろいなって」

「……。怖くねぇのかよ。」

「ヤンキーって正直よくわかんないし…
谷くんおもしろいし!」


谷くんは私の顔をじっと見た。


「な、何?」


メガネの奥で光る目は、動物のように鋭い。

そんなに見つめられると照れる…。


それに、谷くん結構身体ガッチリしてる。

元ヤンだと聞いたからなのか、急にそのイメージに引っ張られて意識してしまう。


「お前、変なやつだな…」


どこか嬉しそうに笑った谷くんにホッとする。


「お前って…谷くん、私の名前覚えてる?」

「え…っと。」

沈黙する谷くんに「ひどい!」と言って軽く叩いた。

「ホント、怖いもの知らずだな。
元ヤンってわかったのに…」

「え、ごめん。他の人と同じノリで…アハハ」

谷くんはやっぱりまた嬉しそうに笑った。

「??」

「覚えてなくて悪い。名前は?」

「あ、近衛 都だよ!よろしくね。」

「よ、よろしく…」


差し出した手を素直に握り返してくれた谷くんにますます好感を覚える。


「えっと…このことは他のやつらには黙っててほしいんだけど…」

「隠してるの?」

「まぁ、いろいろあって…」

「そっか。それなら言わないよ。
そういえば…どんなメッセージだったの?
見られただけで元ヤンだってバレる内容だったの?」


興味本意で聞いてみた質問に、
谷くんは自分のスマホの画面を私に向けた。


『今夜0時、バイクでA駅集合』


ば、バイク…
0時…


安易にバシバシ叩いていい人だったんだろうか…


この日から、私の高校生活は普通じゃない方に転がり始めることになる。