「すごい偶然だね。人多いのに。」

「ここ中学近いからな。
来てるとは思ってたけど、まさか本当に会うとは…」


匡はため息混じりに言った。

もしかして、お祭りに誘ったとき一瞬考えるような間があったのも、中学の友達に会うと思ったから…?


「でも祐介くんと仲良かったんでしょ?
なんか大人っぽい人だったね。」

「アイツだけは信用すんな。」

「アハハ…友達なのに。
それに、太一くんがケンカしないようにって言ってたし、あんまり怖くなかったよ?」

「太一はただのバカだけどな。
祐介は目立たず影で人をボコボコにするタイプ。」


匡の言葉を聞いて、背筋がゾッとした。

あの冷徹な笑顔で…
ひぇえー!!


「でも中学の友達と仲良かったんだね。」

「なんで嬉しそうなんだよ。」

「嬉しいよ…。」

匡が嬉しそうに友達の話をするから。
私も嬉しい。


『皆さん、お待たせいたしました!!』

会場に再びアナウンスが流れ、
ドラムロールや音楽が空気を盛り上げていく。


「花火、もう始まるね。」

「……さっき、言えなかったこと。」

「え?」


みんなのカウントダウンが会場中にこだまする。

「5!!4!3!2!1…」


私の耳に囁かれた言葉。


「0!!!」

ヒューーという音のあと、空気を震わす轟音が空から落ちてきた。
同時に空に鮮やかな花火が咲いた。

周囲の歓声の中、私たちは静かに空を見上げていた。


私の手に匡の手がそっと重なる。

熱い。

私の手も、それ以上に匡の手も。



私は気づいてた。

匡の視線にも、言葉にも。

私だけに向けられる特別なそれらに、
いつまでも気づかないほどバカじゃない。

気づいてたけど、昔の言葉に縛られて、心の奥底に封じ込めてた。



そして今ふと頭によぎった答え。

いつからか彼氏がほしいと思わなくなったこと。

匡の言葉が妙に私の心を揺さぶること。

私の手が熱いこと。


『浴衣、似合ってるよ。』

こんな台詞に心の底から嬉しくてたまらない気持ちになること。




あとは恋をするだけ…

麗香の台詞を思い出し、瞳を閉じた。



恥ずかしくて今は見られない匡の顔をまぶたに映す。

どうして今まで気づかなかったんだろう。

麗香にヒントを言われる今日まで、
気づかなかったのが不思議なくらい。


きっと盲点だ。

友達の距離感は離れがたくて、近づきがたい。

一歩離れれば、近づけば気づいたのに。


今私の左手と0距離になった匡の手ー

近づいたたった一歩が私の盲点を破った。








私は匡が好きだ。