「なに驚愕してんだよ。」
「驚愕もするよ!
あの騒ぎのなか麗香ってば紅茶をふーふー…
じゃなくて!なんであんな誤解されるようなこと!」
「都がつまんなそうにしてたから。」
「え?」
匡はスッと私の手首を離した。
「俺がイケメンってバレて、つまんなそうだった。」
「そんなことないよ!
しかも自分でイケメンって言うな!」
「だってイケメンなんだもん。」
「『もん』じゃない!」
「中学の頃みたいに無差別にモテんの疲れんだ。
メガネかけてんのは、目付き隠すのもそうだけど、無駄にモテないため。」
「なにその理由…めっちゃ腹立つ。」
匡は不敵な笑顔を浮かべた。
いつもとまるで違う。
自信たっぷりに私に笑いかける匡は
私の知らない人に見える。
コミュ障でも、可愛いんでもなくて…
「うぁ、やっぱ匡だ~♪」
「まじじゃん、だっさ!」
そのとき、横から知らない女の子2人に声をかけられた。
「あ?」
「匡っしょ?谷匡平。西中の。」
「誰お前ら」
その瞬間、女子二人の眉間にシワがよった。
「はぁ?中3で同じクラスだったろ。」
「んー…」
悩むポーズをとる匡にその子達のイライラが募るのがわかる。
私はひやひやしながら、その状況を傍観していた。
「てか、なにそのカッコ。
伊藤から聞いてなかったら絶対わかんなかった~」
「プッ!逆高校デビュー?」
伊藤…?
友達?
「あー、そうそう。」
匡は適当に頷く。
「金髪戻しなよ~。メガネとか謎すぎ。」
「そうそ。イメチェンしたらまた遊んだげるよ~」
「戻したらな」
「っ…てか!連れてる女も芋じゃん。」
「もしかして彼女?アハハっ」
なぜ私までディスられてるんだ…。
たしかにあなたたちよりは確実に芋ですけどね。
「うるせぇ、黙れブス。」
「!!?」
ちょっ、匡さん!!?
急に火に油をドバドバと…!
「あぁ?」
案の定、女の子のうち1人が匡との距離を1歩詰め、睨み上げた。
「なに調子にのってんだよ。
お前なんか中学の時だ…け…の……」
なぜかだんだん語気が弱くなり、
しまいにはその子は黙ってしまった。
匡の顔から目をそらし、顔を真っ赤にしている。
「ユカ?」
もう一人が急かすように
匡をにらんでいた子の名前を呼ぶ。
「ああ。お前ユカか。」
「えっ!?」
「化粧盛りすぎてわかんなかった。」
「な、何よ……」
匡は強気な笑顔を見せると、
逆に『ユカ』との距離を縮めた。
「なに女の顔になってんだよ。ビッチ。」
「っな、ち、ちが!
ふざけんな!」
「ちょ、ユカ!」
『ユカ』は顔をさらに真っ赤にして、その場から
歩き去ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなった頃、
匡は「ほらな」と私に向かって言った。
「アハハ…たしかに。」
匡はなにかを思い付いたように「あ」と声を出すと、私の前に立った。
「??匡?」
匡は黙ったまま、私の顔に自分の顔を近づけた。
さっきの『ユカ』との構図と一緒。
目の前に迫る整った顔。
メガネの奥から覗く鋭い目。
ユカが言葉を失うのもわかる…。
『お前距離感おかしいよ』
「っ!!」
私は反射的に匡との距離を離した。
「アハハ…えっと…な、にかな?」
「チッ」
匡は舌打ちをすると、何事もなかったかのように姿勢を直した。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「戻るか。」
「…あっうん。」
なにか言いたいような気がするのに
言葉が出てこない感覚。
私はモヤモヤを抱えたまま、
みんなのいるファミレスに戻っていった。



