山を下りながら黒魂の位置を確かめてみた。
幸いなことに、昨日の人を操る黒魂にはまだ探知できていない。お爺さんの黒魂も吸ったけど、足りない。もう少しだけ力を上げてから見つけ出すつもりだった。
町へ下りて少し歩いたけど、強そうな黒魂はみつからなった。弱い黒魂だからといって見過ごさなかった。手当たりしだい全部吸収した。
手ごたえがないと思った時、ちょっと感じたことのあるすさましい黒魂が感じ取った。
この間出会った男であった。
「久しぶりだね」
「そんなに久しぶりじゃないけど」
男の挨拶に長月はぶっきらぼうに答えた。
「調子はどうかね?」
「なんの?」
長月は知っているけど、問い返した。
「黒魂の吸収調子だよ。あれから大分成長したように見えてるけど…」
「まだまだ、この町にも侮れない黒魂があるからもっともっと吸わないと」
ここで長月は値踏みでもするように男を頭から足までスキャンした。
「どうしたかね?いくらあなたでも僕は付き合うつもりはないけどね」
「私もないよ。何変なこと考えているの!…そんなに私の調子が気になるならいっそのこと、あんたの黒魂を私に吸わせたらどう?」
「もちろんだめですよ」
男はやれやれといったような笑顔を見せながら両手を広げて見せた。
「あっそう。聞きたいことがあるんだけど」
「なんでもどうぞ。僕が答えられる範囲内でなら全部答えましょう」
「今まであなたについて他の月から聞いたことがないけど、何で今回こうにもあっさりと自分の姿を私に見せたの?」
「うん…」
男はしばらく考え始めた。
「月が幸せになることのはこの目で確かめたいから。今までは遠くで隠れて気配だけで感じ取ってみたんだけど、今回だけは違う気になったってわけだ」
「へえ。じゃ、月たちの中であの月に気をつけないとね」
「知ってます。僕もやすやすと吸われませんよ」
「本当にそうだといいけどね」
「僕の心配をしてるのですか?」
「誰が!」
長月はきっぱりと否定した。
「こんなにも迷わずに否定されると、心が傷づくものですね」
「心もあるんだね」
「そりゃ、人ですから」
「本当に自分が人だと思っているの?」
「そうよ。ただ、心にとんでもない黒魂を潜ませているだけですけどね」
この言葉を聞いて、長月は答える気がもうなくなった。
「短い会話ですけど、今日も楽しかったですよ。次まだ会いましょうね」
「結構です!」
男が離れようとしたところ、また長月に話かけた。
「人を操る黒魂、僕が手伝ってあげましょうか?」
「あの黒魂を知ってるの?」
「存在だけならしっているけど」
「なるほど。でも、断るわ、一人で出きる」
「出しゃばったまね、失礼しました」
こういって男は朗らかな笑い声を出しながら離れた。
何をしに来たか長月はいくら考えてもわからなかった。
このまま強くもない黒魂を食べ続けてもらちが明かないので、まず巫女を探すことにした。
手がかりといえばマスオと一緒にいた女の子。同じ学校と思うので、まずマスオの家に行って、そこから一番近い中学校から当ててみることにした。
走りながらマスオの家の近くまでくると、ちょうどマンションから出てきたフミヨを見つけた。今はもう11時頃になったころなのに、出勤しないでどこへ行くのだろうと思って、後をつくことにした。