眩しい朝の陽ざしが長月の全身を包んだ。けだるそうに瞼を開けながら長月は座りなおした。一晩中、木に寄りかかって寝たら体のあちこちが痛い。
ひょいと跳び上がった長月は今日も頑張ろうと自分の頬を軽く叩いた。頑張って黒魂を食べないと、あの結界の中に入れない。マスオがこのまま結界に守ってくれればいいのだが、やっぱり会いたい。
「さてと、今日はどこを探そうか。あてもなく歩きまわるのは時間の無駄だから今日は気配を辿って行動しよう」
長月は両目をつぶり黒魂の気配を探った。町のあちこちに点在している黒魂の気配。人の心に生じて間もない黒魂もあれば人の体を離れうろうろしている弱い黒魂もある。強力な黒魂は自分の気配を隠すすべをもう取得しただろうと長月はふんだ。こうなると少なくとも近くにいない限り黒魂の存在に気付くのは難しい。
やはりこの町の巫女はとても熱心に動いているようだ。黒魂の数も少ないし、一部の黒魂は気配まで消している。
しかたがない。長月はまず町でうろうろしている黒魂を吸収することにした。弱いからといって役に立たないわけもない。塵も積もれば山となる、ということを期待して、全部狩る。
こう決めてから、今いる場所と一番近いところにある黒魂に向かって走り出した。黒魂にあう前に巫女に先を取られては困るからだ。
黒魂に近づくにつれ、そっちも長月の気配に気づいたか、場所を移動し始めた。
「勝てないと思って逃げるのね。賢い判断。だけど、いつまで逃げられるのかしら」
長月は少しばからスピードをあげた。
5分経ってから長月は追っていた黒魂を見つけた。一気にスピードを上げ、追い抜き、黒魂の前に軽く舞い降りた。長月と黒魂は人気のない公園まできた。平日の朝なので誰一人いない公園であった。周りには住宅街みたいな建物もなかった。
「もう逃がさないよ」
長月の髪は蛇のように黒魂目掛けて飛びついた。
黒魂もおとなしく食べさせるつもりはないらしく、横に転がって長月の攻撃をかわした。黒魂は身を整えて長月の髪を踏み台に長月に飛びつき、攻撃を仕掛けた。
「へえ、攻撃をするね。でも、あんたごときに負ける私じゃないよ。攻撃が甘い!」
長月の髪はパッと円の形に広がり、真正面から飛んでくる黒魂をあっという間に包み込もうとした。しかし、すべての弱い動物のように体だけは軽いし逃げ足も速い。包み困れるよりもはやく、身をそらして後ろに跳び下がった。
長月は逃げさせないと、髪を伸ばし黒魂を足を狙った。黒魂は跳びあがりながら避けようとしたのだが、髪の速さには勝てなかった。片足を髪に取られ、地面に落ちた。
長月は髪で弱い黒魂の体を包み込み、仕込み始めた。弱いだったので力を全部吸収するのに時間がそんなにかからなかった。
「やっぱり食べた感じがしないなぁ。どこかすっごい黒魂がないのかな」
すると長月の願いにこたえるかのようにすさまじい黒魂の気配を感じ取っってしまった。そして、ものすごい速さで長月のいる所に接近している。
「やばいやつに狙われたね。やばいことになりそうだ」
強い黒魂が現れてうれしくもあるが、今の自分の力ではあるけど苦戦するに違いない。体がボロボロになるまで戦う覚悟はしたほういいと、長月は拳を握りしめた。
長月は髪一本一本に神経を集中させた。
戦闘態勢で構えている長月の前に現れたのは2メートルくらいのとても太った黒魂だった。ついこの間吸収した漫才コンビの二匹が頭の中に浮かんできた。目の前にあるこの黒魂はふざけたフトックというやつとは格が違う。
「おやおや、めずらしい珍味が本当に現れるとは。おれはついているな。ずっと会いたかったよ」
太った黒魂が耳障りな声を出した。漆黒の奈落の底から這いあがってくるような声だ。
「ふん、こっちのセリフだね。まさかこんな強力な黒魂に出くわすとは。これじゃ、私の力も一段と上がるよね。だから先に礼を言ってあげるわ。私の体の一部になってくれて、ありがとう」
「戯言を。お前におれが倒されるとでも思う?」
黒魂の言葉は冗談ではなかった。漂ってくるすさまじいオーラは長月の体をすくませた。だからといって逃げるわけにもいかない。目につけられて以上、決着をつかねばならない。どこまでもついてくるだろうと長月も思ったからだ。
「じゃ、始めようか。おいしい朝食を」
言葉が終わるなり、黒魂の体の中から人が吐き出されてきた。まるで、粘土の一部を千切ったような技だ。吐き出された人は上半身を前かがみにし、ゆらゆら体を揺らしながらゆっくりと長月に向かって歩いた。
「こんなもので私が倒れると思うの?」
口はこういったものの、長月は気を緩まなかった。何が起きるかわからないからだ。人は突然走り出し長月にとびかかってきた。長月は身をよじっただけで軽くかわした。人はすかさず体を曲げ腕を振った。
体に届きそうなので長月は髪で防いだつもりだが、人の力は思った以上だった。打たれた長月は何メートル飛ばされてからやっと止まった。
「どう?おれのおもちゃは。よくできているでしょう?一人を養うには大分栄養が必要だ。でも出来上がりは上等だから待てたんだ。もう一人を腹の中で養っているけど、今日の戦いには間に合わないのは残念だな」
黒魂がしゃべっている時、長月はずっと人の攻撃をかわしながらこの厄介ものをどう解決するか考えた。人なので本気を出すわけにはいかない。しかし、攻撃をするにつれ、人の動きと力量が上昇しているのが分かったから、油断もできない。
長月は頃合いを見計らって髪に力をいれた。
今までただ攻撃を受けたのではなく、一本一本の髪の毛を人の両手を両足に巻き付けたのであった。人は攻撃だけをする機械で、体に巻き付けられた髪は気づいていない。
ぐっと髪を引っ張ったら人の動きはピタリと止まった。と思って少しの安心を感じると、人はまたすぐ暴きだした。
「ちょっと、それ以上暴れると体が切れてしまうよ!」
長月の声を聞いても、人は動きをやめなかった。
「優しいねお前は、死んだ人にも」
「死んだ?!」
「気づいていないの?俺の見込み違いってわけか。すっごい『月』だと思ったのに。彼はもう死んでいるよ。おれが生きている人を操るとでも思った?笑わせるなよ。おれの魂が人の体中に廻ったのが最期、もうただの人の皮をした人形にすぎない」
長月は胸中で燃え上がる怒りの火花を感じた。
「悪趣味ね」
長月は暴れる人をなんとかしながら言葉をつづけた。
「確認のために一つ聞くけど。飲み込んだ人は生きた人?それとも死んだ人?」
太った黒魂は空に向かった高い笑い声をあげた。
「愚問だね。もちろん生きた人間だよ。じゃないと、おれに飲み込まれた時の恐怖、おれの中でもがき苦しむザマがみれないんじゃない」
長月の頭に血が津波のように上がった。
長月は髪に巻かれた人の頭上から強く振り下ろし、地面にたたきつけた。けれど、人を気絶できず暴れ続けた。
「中にあるおれの魂が消えない限り動きは止めれないぞ。つまり、おれを倒さない限り暴れ続けるわけだ。どうだ?とても遊び甲斐があると思わないのかね」
「思わないね!」
長月は髪で人の全身を包んだ。蜘蛛が餌を糸でくるくる巻き付けたように。長月は人を引きずりながら黒魂に向かって歩きだした。
「もう死んだ人にそんな優しくしても面白くねぇね。ところで、そんなに余裕ぶり、いつまで続くかか楽しみだね……」
黒魂がまた何か話をしようとしたようだが、それより先に、長月は攻撃を仕掛けた。残りの髪を黒魂あてに突き刺した。
黒魂の体に刺さろうとした瞬間、黒い胴体から人の手て現れ長月の髪を掴んだ。長月は抜けようとしたが思った以上の力を持っている両手に捕まえ、びくともできなくなってきた。
「おれ、完成した操り人形が一人だと言ったことないよね。つい最近飲み込んだ人はまだ完全に人形にできなかった。油断は禁物だよ!」
こう言ってから黒魂は不気味な笑い声を上げた。
長月の髪を掴んだ両手はだんだん黒魂の胴体から出てきた。完全に外へ出た人は力いっぱい掴んだ髪を横に投げた。
長月は空中で回転しながら体制を整えて、地面についた。
二番の人は長月に休み暇を与えずとびかかってきた。正面から飛んでくる二番目の人に髪で包んだ人を武器として打った。鈍い衝突音と共に、二番目の人は数メートルはじかれた。
「やはりお前は悪いやつだな、死んだ人の死体を武器に使うなんて。でも、面白いよ、それ。俺は大好きだ」
「こっちはちっとも面白くないんだから!」
長月は髪で包んだ人を宙につるして黒魂に向かって走りだした。この人で黒魂を打つつもりだった。あと一歩というところで、長月は飛びついてきた二番目の人に捕まってしまった。二人は一緒に地面に転がって,木にぶつかって止まった。
長月はすぐ立ちあがろうとしたが、体の上に跨がれた二番目の人の拳を受ける羽目になってしまった。すかさず髪で防いだが打撃のちからで、少しずつ地面に食い込まれるようになった。
今の人は一番目の人と明らかに力の差が違う。
しかし、もう少しここままにしてれば力が上がると長月は確信した。なぜかというと、髪に包まれた人の中にある黒魂の魂がもうすこして全部吸収するところだ。あともう少し耐えれば力があがる。
髪で包んだ人の中にある黒魂の魂を全部吸い込んで自分の力にした瞬間、長月は自分の上に跨っている人を髪で強く横に払った。人は飛んでいき、長月はゆっくり立ち上がった。
「私がなぜこんな荷物をずっと持っていると思ってる?力を吸い込むに決まっているんじゃない。おかげて力がまた上がった」
長月は黒魂をなくしたもぬけの殻のようになった人をそっと近くの木陰に置いた。
「それぐらいで調子に乗っては困るんだけどね。まぁ、おれの黒魂を吸ってるのではないか~とうすうす感づいていたがね。でも、それくらいの黒魂を吸いこんだところでおれに勝てると思ったら、困るんだね」
確かに、力を吸い込んでもまた楽に勝てる相手ではないってことは長月もしっている。しかし、戦ってる最中、隙をみて急所をねらうことさえできれば。
長月に考える暇も与えず、二番目の人は攻撃しようと駆けつけてきた。
長追は力が入った髪で向かってくる二番目の人を思いっきりぶった。二番目の人は両手を体に前に構え、長月の攻撃を防ぎながら、突進をやめなかった。
二番目の人は長月との距離が攻撃範囲以内に入ったところで、右手を上げ長月を殴ろうとした。長月も今度は防御はせず、髪を人の右手に払った。
長月の攻撃を受けても二番目の人は攻撃をやめなかった。人はもう一つ空いている左手で長月を打とうとしたその時、髪が人の右手を巻き付きその勢いで左手も巻いた。このまま一番目の人の黒魂を吸い込んだように包み込んでゆっくりと力を吸い込もうとしたがうまくいかなかった。
両手を縛られた人は力一杯長月の体ごと振り上げ地面に叩きつけた。長月の体は円を描きながら地面に打ちつけられた。
長月は血を噴き出した。
思いかけないこの傷は長月に大きなダメージを与えた。二番目の人はもう一回同じことをしようと振り上げたその時、長月は髪を彼の両手から放した。
長月は着地し、攻撃を開始しようたが背後からものすごい勢いでもう一人の人が飛びついて両手で長月をしっかりと抱きしめた。
「一度おれの人形になった人は、再び動かすにはそう時間がかからないもんでね。こうなった以上、お前はどうするつもり?くっついた人形を殺し解放する前にもう一つの人形に殺されるかもよ」
黒魂の話を実現しようとするかのように、二番目の人は拘束された長月に向かって駆け出した。
長月がいくらもがいても抜け出さないとわかって、髪を鋭くし自分を強く締めている両手を切り落とし後ろにある人を払いのけ、目の前攻撃してくる人に備え髪の盾をつくった。それからすぐ残りの髪で地面をひっきりなしに叩き、埃を起こした。
埃で周囲が見られなくなって長月はすぐ撤退した。今ここで自分にできることは時間稼ぎしかないことをはっきりとわかったからであった。
「逃げることを選んだのか。でも、いつまで逃げられると思う?いつかまた戦うことになるんだ!その日まで死なない事を祈るよ!」
黒魂の勝ち誇ったような叫び声が静かな公園内で響き渡った。
胸の中で飛び回る悔しい気持ちを、長月はぐっと抑えながら、黒魂から遠く離れる所に逃げる事だけを考えた。
ひょいと跳び上がった長月は今日も頑張ろうと自分の頬を軽く叩いた。頑張って黒魂を食べないと、あの結界の中に入れない。マスオがこのまま結界に守ってくれればいいのだが、やっぱり会いたい。
「さてと、今日はどこを探そうか。あてもなく歩きまわるのは時間の無駄だから今日は気配を辿って行動しよう」
長月は両目をつぶり黒魂の気配を探った。町のあちこちに点在している黒魂の気配。人の心に生じて間もない黒魂もあれば人の体を離れうろうろしている弱い黒魂もある。強力な黒魂は自分の気配を隠すすべをもう取得しただろうと長月はふんだ。こうなると少なくとも近くにいない限り黒魂の存在に気付くのは難しい。
やはりこの町の巫女はとても熱心に動いているようだ。黒魂の数も少ないし、一部の黒魂は気配まで消している。
しかたがない。長月はまず町でうろうろしている黒魂を吸収することにした。弱いからといって役に立たないわけもない。塵も積もれば山となる、ということを期待して、全部狩る。
こう決めてから、今いる場所と一番近いところにある黒魂に向かって走り出した。黒魂にあう前に巫女に先を取られては困るからだ。
黒魂に近づくにつれ、そっちも長月の気配に気づいたか、場所を移動し始めた。
「勝てないと思って逃げるのね。賢い判断。だけど、いつまで逃げられるのかしら」
長月は少しばからスピードをあげた。
5分経ってから長月は追っていた黒魂を見つけた。一気にスピードを上げ、追い抜き、黒魂の前に軽く舞い降りた。長月と黒魂は人気のない公園まできた。平日の朝なので誰一人いない公園であった。周りには住宅街みたいな建物もなかった。
「もう逃がさないよ」
長月の髪は蛇のように黒魂目掛けて飛びついた。
黒魂もおとなしく食べさせるつもりはないらしく、横に転がって長月の攻撃をかわした。黒魂は身を整えて長月の髪を踏み台に長月に飛びつき、攻撃を仕掛けた。
「へえ、攻撃をするね。でも、あんたごときに負ける私じゃないよ。攻撃が甘い!」
長月の髪はパッと円の形に広がり、真正面から飛んでくる黒魂をあっという間に包み込もうとした。しかし、すべての弱い動物のように体だけは軽いし逃げ足も速い。包み困れるよりもはやく、身をそらして後ろに跳び下がった。
長月は逃げさせないと、髪を伸ばし黒魂を足を狙った。黒魂は跳びあがりながら避けようとしたのだが、髪の速さには勝てなかった。片足を髪に取られ、地面に落ちた。
長月は髪で弱い黒魂の体を包み込み、仕込み始めた。弱いだったので力を全部吸収するのに時間がそんなにかからなかった。
「やっぱり食べた感じがしないなぁ。どこかすっごい黒魂がないのかな」
すると長月の願いにこたえるかのようにすさまじい黒魂の気配を感じ取っってしまった。そして、ものすごい速さで長月のいる所に接近している。
「やばいやつに狙われたね。やばいことになりそうだ」
強い黒魂が現れてうれしくもあるが、今の自分の力ではあるけど苦戦するに違いない。体がボロボロになるまで戦う覚悟はしたほういいと、長月は拳を握りしめた。
長月は髪一本一本に神経を集中させた。
戦闘態勢で構えている長月の前に現れたのは2メートルくらいのとても太った黒魂だった。ついこの間吸収した漫才コンビの二匹が頭の中に浮かんできた。目の前にあるこの黒魂はふざけたフトックというやつとは格が違う。
「おやおや、めずらしい珍味が本当に現れるとは。おれはついているな。ずっと会いたかったよ」
太った黒魂が耳障りな声を出した。漆黒の奈落の底から這いあがってくるような声だ。
「ふん、こっちのセリフだね。まさかこんな強力な黒魂に出くわすとは。これじゃ、私の力も一段と上がるよね。だから先に礼を言ってあげるわ。私の体の一部になってくれて、ありがとう」
「戯言を。お前におれが倒されるとでも思う?」
黒魂の言葉は冗談ではなかった。漂ってくるすさまじいオーラは長月の体をすくませた。だからといって逃げるわけにもいかない。目につけられて以上、決着をつかねばならない。どこまでもついてくるだろうと長月も思ったからだ。
「じゃ、始めようか。おいしい朝食を」
言葉が終わるなり、黒魂の体の中から人が吐き出されてきた。まるで、粘土の一部を千切ったような技だ。吐き出された人は上半身を前かがみにし、ゆらゆら体を揺らしながらゆっくりと長月に向かって歩いた。
「こんなもので私が倒れると思うの?」
口はこういったものの、長月は気を緩まなかった。何が起きるかわからないからだ。人は突然走り出し長月にとびかかってきた。長月は身をよじっただけで軽くかわした。人はすかさず体を曲げ腕を振った。
体に届きそうなので長月は髪で防いだつもりだが、人の力は思った以上だった。打たれた長月は何メートル飛ばされてからやっと止まった。
「どう?おれのおもちゃは。よくできているでしょう?一人を養うには大分栄養が必要だ。でも出来上がりは上等だから待てたんだ。もう一人を腹の中で養っているけど、今日の戦いには間に合わないのは残念だな」
黒魂がしゃべっている時、長月はずっと人の攻撃をかわしながらこの厄介ものをどう解決するか考えた。人なので本気を出すわけにはいかない。しかし、攻撃をするにつれ、人の動きと力量が上昇しているのが分かったから、油断もできない。
長月は頃合いを見計らって髪に力をいれた。
今までただ攻撃を受けたのではなく、一本一本の髪の毛を人の両手を両足に巻き付けたのであった。人は攻撃だけをする機械で、体に巻き付けられた髪は気づいていない。
ぐっと髪を引っ張ったら人の動きはピタリと止まった。と思って少しの安心を感じると、人はまたすぐ暴きだした。
「ちょっと、それ以上暴れると体が切れてしまうよ!」
長月の声を聞いても、人は動きをやめなかった。
「優しいねお前は、死んだ人にも」
「死んだ?!」
「気づいていないの?俺の見込み違いってわけか。すっごい『月』だと思ったのに。彼はもう死んでいるよ。おれが生きている人を操るとでも思った?笑わせるなよ。おれの魂が人の体中に廻ったのが最期、もうただの人の皮をした人形にすぎない」
長月は胸中で燃え上がる怒りの火花を感じた。
「悪趣味ね」
長月は暴れる人をなんとかしながら言葉をつづけた。
「確認のために一つ聞くけど。飲み込んだ人は生きた人?それとも死んだ人?」
太った黒魂は空に向かった高い笑い声をあげた。
「愚問だね。もちろん生きた人間だよ。じゃないと、おれに飲み込まれた時の恐怖、おれの中でもがき苦しむザマがみれないんじゃない」
長月の頭に血が津波のように上がった。
長月は髪に巻かれた人の頭上から強く振り下ろし、地面にたたきつけた。けれど、人を気絶できず暴れ続けた。
「中にあるおれの魂が消えない限り動きは止めれないぞ。つまり、おれを倒さない限り暴れ続けるわけだ。どうだ?とても遊び甲斐があると思わないのかね」
「思わないね!」
長月は髪で人の全身を包んだ。蜘蛛が餌を糸でくるくる巻き付けたように。長月は人を引きずりながら黒魂に向かって歩きだした。
「もう死んだ人にそんな優しくしても面白くねぇね。ところで、そんなに余裕ぶり、いつまで続くかか楽しみだね……」
黒魂がまた何か話をしようとしたようだが、それより先に、長月は攻撃を仕掛けた。残りの髪を黒魂あてに突き刺した。
黒魂の体に刺さろうとした瞬間、黒い胴体から人の手て現れ長月の髪を掴んだ。長月は抜けようとしたが思った以上の力を持っている両手に捕まえ、びくともできなくなってきた。
「おれ、完成した操り人形が一人だと言ったことないよね。つい最近飲み込んだ人はまだ完全に人形にできなかった。油断は禁物だよ!」
こう言ってから黒魂は不気味な笑い声を上げた。
長月の髪を掴んだ両手はだんだん黒魂の胴体から出てきた。完全に外へ出た人は力いっぱい掴んだ髪を横に投げた。
長月は空中で回転しながら体制を整えて、地面についた。
二番の人は長月に休み暇を与えずとびかかってきた。正面から飛んでくる二番目の人に髪で包んだ人を武器として打った。鈍い衝突音と共に、二番目の人は数メートルはじかれた。
「やはりお前は悪いやつだな、死んだ人の死体を武器に使うなんて。でも、面白いよ、それ。俺は大好きだ」
「こっちはちっとも面白くないんだから!」
長月は髪で包んだ人を宙につるして黒魂に向かって走りだした。この人で黒魂を打つつもりだった。あと一歩というところで、長月は飛びついてきた二番目の人に捕まってしまった。二人は一緒に地面に転がって,木にぶつかって止まった。
長月はすぐ立ちあがろうとしたが、体の上に跨がれた二番目の人の拳を受ける羽目になってしまった。すかさず髪で防いだが打撃のちからで、少しずつ地面に食い込まれるようになった。
今の人は一番目の人と明らかに力の差が違う。
しかし、もう少しここままにしてれば力が上がると長月は確信した。なぜかというと、髪に包まれた人の中にある黒魂の魂がもうすこして全部吸収するところだ。あともう少し耐えれば力があがる。
髪で包んだ人の中にある黒魂の魂を全部吸い込んで自分の力にした瞬間、長月は自分の上に跨っている人を髪で強く横に払った。人は飛んでいき、長月はゆっくり立ち上がった。
「私がなぜこんな荷物をずっと持っていると思ってる?力を吸い込むに決まっているんじゃない。おかげて力がまた上がった」
長月は黒魂をなくしたもぬけの殻のようになった人をそっと近くの木陰に置いた。
「それぐらいで調子に乗っては困るんだけどね。まぁ、おれの黒魂を吸ってるのではないか~とうすうす感づいていたがね。でも、それくらいの黒魂を吸いこんだところでおれに勝てると思ったら、困るんだね」
確かに、力を吸い込んでもまた楽に勝てる相手ではないってことは長月もしっている。しかし、戦ってる最中、隙をみて急所をねらうことさえできれば。
長月に考える暇も与えず、二番目の人は攻撃しようと駆けつけてきた。
長追は力が入った髪で向かってくる二番目の人を思いっきりぶった。二番目の人は両手を体に前に構え、長月の攻撃を防ぎながら、突進をやめなかった。
二番目の人は長月との距離が攻撃範囲以内に入ったところで、右手を上げ長月を殴ろうとした。長月も今度は防御はせず、髪を人の右手に払った。
長月の攻撃を受けても二番目の人は攻撃をやめなかった。人はもう一つ空いている左手で長月を打とうとしたその時、髪が人の右手を巻き付きその勢いで左手も巻いた。このまま一番目の人の黒魂を吸い込んだように包み込んでゆっくりと力を吸い込もうとしたがうまくいかなかった。
両手を縛られた人は力一杯長月の体ごと振り上げ地面に叩きつけた。長月の体は円を描きながら地面に打ちつけられた。
長月は血を噴き出した。
思いかけないこの傷は長月に大きなダメージを与えた。二番目の人はもう一回同じことをしようと振り上げたその時、長月は髪を彼の両手から放した。
長月は着地し、攻撃を開始しようたが背後からものすごい勢いでもう一人の人が飛びついて両手で長月をしっかりと抱きしめた。
「一度おれの人形になった人は、再び動かすにはそう時間がかからないもんでね。こうなった以上、お前はどうするつもり?くっついた人形を殺し解放する前にもう一つの人形に殺されるかもよ」
黒魂の話を実現しようとするかのように、二番目の人は拘束された長月に向かって駆け出した。
長月がいくらもがいても抜け出さないとわかって、髪を鋭くし自分を強く締めている両手を切り落とし後ろにある人を払いのけ、目の前攻撃してくる人に備え髪の盾をつくった。それからすぐ残りの髪で地面をひっきりなしに叩き、埃を起こした。
埃で周囲が見られなくなって長月はすぐ撤退した。今ここで自分にできることは時間稼ぎしかないことをはっきりとわかったからであった。
「逃げることを選んだのか。でも、いつまで逃げられると思う?いつかまた戦うことになるんだ!その日まで死なない事を祈るよ!」
黒魂の勝ち誇ったような叫び声が静かな公園内で響き渡った。
胸の中で飛び回る悔しい気持ちを、長月はぐっと抑えながら、黒魂から遠く離れる所に逃げる事だけを考えた。