昼休みになって、マスオはアツコと一緒に学校の屋上に来た。
「昼休みなのに、屋上にいる人は私たち二人だけなんて、以外だよね」
アツコは嬉しそうな声で言った。生徒たちがあっちこっちで弁当を食べるのを想像したみたいだ。
空はとても青く、そよ風も吹いているので、本当に弁当日和と言ってもいい。
マスオはアツコがなぜうれしがっているか、知らない。人がいないから嬉しい?それとも、これから聞ける秘密があるから嬉しい?それとも、また別の何かが?もちろん、アツコはマスオと二人きりになったことに喜んでいる。二人きりの秘密基地を見つけたような気分だ。秘密を共有している二人の関係が急接近することも、アツコは期待している。
「ねぇ、なにぼうっとしているの?」
アツコの声に、マスオは我に返った。
「いや、別に」
「じゃ、早速ご飯を食べながら教えてね」
「う、うん。分った」
二人は鉄網により掛かって坐り、弁当箱の蓋を開けた。食べ物のいい香りがした。
「いつものことだけど、マスオのお母さんの料理の腕は本当に上手よね。すっごくいい香りがするんだから」
「食べる?」
「その言葉を待っていました!」
アツコはそういってすぐ、マスオの弁当の中身を狙った。アツコのお箸の裁きがすごかった。あっというまに、マスオの弁当のおかずが減っていった。
「アツコの目的はこれだったか」
「ばれた?」
アツコはマスオの弁当から貰った料理を口に入れながら話し出した。
「それで、マスオの悩みは何?すっごく真剣な顔だったから心配してたんだよ」
表情と口調からは少しもの心配気味が感じられないが。
正直、どうやって話し出せばいいか、全然分らない。マスオを戸惑っているところをみたアツコは、急かすのではなく、マスオが話し出すのをじっと待っていた。
「あれはさ、一昨日のことなんだけど……」
秘密を誰かにあかすのって、初めてなので、最初は胸がどきどきしたし、声も震えていたが、やっと落ち着いたところで、マスオは話し出した。
「放課後にね、家に向かっていると、空から巨大な白い球が現れたの……」
マスオは一昨日から見た異変を全部アツコに打ち明けた。しかし、長月の事だけは口に出さなかった。なぜ言わなかったか、マスオ自身もわけをしらない。
マスオの話を聞いたアツコは深刻な顔になった。そんな顔をみて、マスオは少し怯えてきた。だってアツコは、今まで見たことのない顔をしているから。
「マスオ、これから私の言っている事は絶対秘密にしてね。それに、私に話したことも、他の人に話してはいけないよ。絶対だよ、約束できる?」
アツコの真剣なまなざしに見つめられたアマスオは少し怯んだ。
「う、うん。誰にも言わないよ。言ったところで信じてくれないに決まってるんじゃない」
「ここで誓って!」
アツコの声には逆らえない威厳があった。びっくりしたマスオはおろおろしながら、両手を合わせ、誓い始めた。
「私、マスオは、この事を絶対誰にも言いません。もし、言ってしまったら、しまったら……」
後をどうやって続けばいいか分らなかったので、助けの目でアツコを見た。アツコは仕方ないという顔でマスオを見つめた。
「誓いは言葉だけで済ますものではないよ。一番大事なのは気持ちの問題だよ」
アツコの話を聞いて、マスオは分ったふうに頷いた。気持ちの問題なら大丈夫と自信があるから。
マスオはもう一度手を合わせた。今度は心の中で誓った。
誓いが終ってから、目を開きアツコを見た。
アツコは自分の膝に乗せた弁当箱に蓋をしめて脇の地面に移した。
「マスオが見た黒い影、私たちは黒魂と呼ぶの」
「私たち?」
マスオは訊いた。
「もちろん、マスオと私の私たちではなく、私の家族のことよ。大の昔から巫女をやってきたから、そんなことは知っていて同然よ。あの黒魂がこの世に現れたってことは戦いの嵐がもうすぐだという証なの」
「戦いの嵐ってなに?」
「それについては後で話す。それより、知らない女があなたを会いに行かなかったの?」
アツコが言っているのはきっと長月だ。
「そんな人、まだ、来てないよ」
「本当?」
アツコの疑いの視線を直面するのが怖くてマスオは目をそらそうとしたが、そうすると嘘だってことがばれると思った。
アツコの目にはびくっとしたが、マスオは平然を装って力強く頷いた。
「本当だよ。そんな女、みたことがない」
アツコは少し安心した顔になった。マスオはあの女がどんな人なのか気になって、おそるおそる尋ねた。
「知らない女が尋ねてきたら、何かまずいことでも起きるの?その女はどんな人なの?」
「うん。私もついこの間に、お母様から聞いたんだけど、黒魂は、戦いの嵐がくる前触れだって。黒魂は私にはまだ見えないけど、お母様のようなすごい巫女には見えるらしいの。そして、見つけた黒魂を消滅するの」
「じゃ、あの知らない女も黒魂なの?」
「違う。女も黒魂を消滅しに来たの」
これを聞いたマスオは少し安心した。黒魂を消す人なら悪い人ではない、っていう事を知っただけで、よかったと思った。
「なら、いい人じゃない?」
「違う。女はいい人じゃない。そもそも、女は人ではない。黒魂を食べて、その力を自分の物にする。そして、黒魂の力によって人の形になる、ただの化け物よ」
「化け物?でも、黒魂を消すでしょう?」
「それは全部自分が強い力を得るためだけなの」
「女は力を得てどうするつもり?」
「最後の戦いで勝って、自分の運命の人と一緒にいるためなの」
運命の人、この単語を長月は確かに口にしたのをマスオは覚えている。なら、長月は自分と一緒にいるために黒魂を食べ、強くなるのかなって、マスオは一人、考えた。
「それなら、別に悪い人でもないじゃない。自分の運命の人と一緒にいるために戦うなんて。なんか、切なくていいんじゃない?」
マスオは自然にも、長月の肩を持つような発言をした。
「全然よくないよ。マスオはまだ何も知らないからそんな事が言えるの」
「女が戦う相手は黒魂なの?それとも、アツコのような巫女なの?」
「黒魂と女は同類なの。私たち巫女はただ、人間に危害を与える物を消滅するだけ」
「なら、女とは敵じゃないじゃない。なぜ嫌っているの?一緒に黒魂を消滅すればいいんじゃない」
アツコはマスオの言葉を聞いて、困った顔になった。
「女が現れると、人間の死亡率は急速に上がるから」
「でも、女は人間を襲わないじゃない?」
「女は人間を襲わないけど、人間の心の中にある黒魂を誘き出す力があるの。黒魂を心の中から抜かれた人間は、死ぬか、もっと強力な黒魂を生み出す、この二つの選択しか残されていない」
マスオを言葉を失った。言ってる意味がよく分からないので、消化するのに時間がかかった。
「だから、女が現れると私たち巫女はあちこち歩き回りながら、黒魂を消し、黒魂に傷づけられた人を癒し、黒魂に支配された人の救助にとりかからなければならないの」
「黒魂に支配された人?」
「そう。女が現れて、一部の人間は自分の心に潜んだ黒魂の存在を知り、強い精神力で黒魂を支配し、黒魂の力を使って悪事をするの。もちろん、人間の体をのっとる黒魂もある。……一言で言って、女は災いの導火線となってこの世界に現れるってわけ。だから、本当に大変。うちのお母様も最近、忙しくなってよく顔も見れなかったの。私はまだ一人前になってないから連れていってくれないけどね。私としてはもう立派な巫女になったと思うけどな」
アツコはお茶を一口飲んで、マスオをを見ながらまた何か聞きたいことがある?というふうな眼差しを向けた。
「あっ、そうだ。先アツコは女は自分の同類とも戦うといったよね。女のように、黒魂を食べる人はまたほかにいるってこと?」
「そう。またいる。その事についてはまだ聞いていないの。なら、今夜うちに来ない?お母様がもっと詳しく教えてくれるはずよ」
「でも、忙しいって言ってだじゃない?」
「大丈夫。事情を説明すればきっと家に残るって。それに、マスオが黒魂の姿が見えるってことはとても珍しいから、お母様も理由がわかるかもよ」
マスオはその理由をなんとなくわかっているような気がした。長月という女の子が自分を運命の人って呼んでだから、なんとなく関係があるのではないかと。
いきなりアツコの家を訪れるのは緊張するが、マスオは長月の事をもっと知りたくなって、訪問することに決めた。
「決まりね。じゃ、そろそろ午後の授業が始まるから、教室に戻ろうか」
「うん。戻ろう」
アツコとマスオは立ち上がって教室に向かった。
この時、マスオの頭にふと母さんの面影が浮かんだ。
「アツコ、黒魂が抜かれても死ななかった人は、もっと強い黒魂を生み出すといったよね」
「そうよ。どうした?」
マスオの顔が急に暗くなった。明るくふるまっても、今のマスオに元気付けられることではないと、アツコはなんとなく知った。
「母は今も生きている。ってことは、今、母の心の中には前よりも強い黒魂がいるってことになるの?」
アツコはどう答えればいいか、分らなくなった。
「でも、アツコの母さんは、黒魂を抜かれなかったかもしれないじゃない?だから、今のままだよ。だって、黒魂がつよくなったら、絶対大変な事になったよ。このまま平和にいられるはずないよ」
「本当?」
「本当本当。黒魂を抜かれなくて、そのまま今までの生活をする人間だっていっぱいいるんだから」
現に、黒魂のことを知らずに生活を続く人がいっぱいいるから。
アツコの言葉を聞いて、マスオは少し安心した。しかし心にかかった雲は消えていなかった。
二人は階段をおりながら教室に向かった。
アツコはマスオの母さんの事をずっと考えた。黒魂がもし抜かれなかったら、きっともっと強力な黒魂が生まれるかもしれない。この事をお母様に話して、何か対策しないと。マスオが悲しむ顔が見たくない。黒魂が目覚めず、ずっと心の中で眠ったままになる確率の方が高いが、万が一っていうこともあるから、絶対お母様に頼むことにした。
「昼休みなのに、屋上にいる人は私たち二人だけなんて、以外だよね」
アツコは嬉しそうな声で言った。生徒たちがあっちこっちで弁当を食べるのを想像したみたいだ。
空はとても青く、そよ風も吹いているので、本当に弁当日和と言ってもいい。
マスオはアツコがなぜうれしがっているか、知らない。人がいないから嬉しい?それとも、これから聞ける秘密があるから嬉しい?それとも、また別の何かが?もちろん、アツコはマスオと二人きりになったことに喜んでいる。二人きりの秘密基地を見つけたような気分だ。秘密を共有している二人の関係が急接近することも、アツコは期待している。
「ねぇ、なにぼうっとしているの?」
アツコの声に、マスオは我に返った。
「いや、別に」
「じゃ、早速ご飯を食べながら教えてね」
「う、うん。分った」
二人は鉄網により掛かって坐り、弁当箱の蓋を開けた。食べ物のいい香りがした。
「いつものことだけど、マスオのお母さんの料理の腕は本当に上手よね。すっごくいい香りがするんだから」
「食べる?」
「その言葉を待っていました!」
アツコはそういってすぐ、マスオの弁当の中身を狙った。アツコのお箸の裁きがすごかった。あっというまに、マスオの弁当のおかずが減っていった。
「アツコの目的はこれだったか」
「ばれた?」
アツコはマスオの弁当から貰った料理を口に入れながら話し出した。
「それで、マスオの悩みは何?すっごく真剣な顔だったから心配してたんだよ」
表情と口調からは少しもの心配気味が感じられないが。
正直、どうやって話し出せばいいか、全然分らない。マスオを戸惑っているところをみたアツコは、急かすのではなく、マスオが話し出すのをじっと待っていた。
「あれはさ、一昨日のことなんだけど……」
秘密を誰かにあかすのって、初めてなので、最初は胸がどきどきしたし、声も震えていたが、やっと落ち着いたところで、マスオは話し出した。
「放課後にね、家に向かっていると、空から巨大な白い球が現れたの……」
マスオは一昨日から見た異変を全部アツコに打ち明けた。しかし、長月の事だけは口に出さなかった。なぜ言わなかったか、マスオ自身もわけをしらない。
マスオの話を聞いたアツコは深刻な顔になった。そんな顔をみて、マスオは少し怯えてきた。だってアツコは、今まで見たことのない顔をしているから。
「マスオ、これから私の言っている事は絶対秘密にしてね。それに、私に話したことも、他の人に話してはいけないよ。絶対だよ、約束できる?」
アツコの真剣なまなざしに見つめられたアマスオは少し怯んだ。
「う、うん。誰にも言わないよ。言ったところで信じてくれないに決まってるんじゃない」
「ここで誓って!」
アツコの声には逆らえない威厳があった。びっくりしたマスオはおろおろしながら、両手を合わせ、誓い始めた。
「私、マスオは、この事を絶対誰にも言いません。もし、言ってしまったら、しまったら……」
後をどうやって続けばいいか分らなかったので、助けの目でアツコを見た。アツコは仕方ないという顔でマスオを見つめた。
「誓いは言葉だけで済ますものではないよ。一番大事なのは気持ちの問題だよ」
アツコの話を聞いて、マスオは分ったふうに頷いた。気持ちの問題なら大丈夫と自信があるから。
マスオはもう一度手を合わせた。今度は心の中で誓った。
誓いが終ってから、目を開きアツコを見た。
アツコは自分の膝に乗せた弁当箱に蓋をしめて脇の地面に移した。
「マスオが見た黒い影、私たちは黒魂と呼ぶの」
「私たち?」
マスオは訊いた。
「もちろん、マスオと私の私たちではなく、私の家族のことよ。大の昔から巫女をやってきたから、そんなことは知っていて同然よ。あの黒魂がこの世に現れたってことは戦いの嵐がもうすぐだという証なの」
「戦いの嵐ってなに?」
「それについては後で話す。それより、知らない女があなたを会いに行かなかったの?」
アツコが言っているのはきっと長月だ。
「そんな人、まだ、来てないよ」
「本当?」
アツコの疑いの視線を直面するのが怖くてマスオは目をそらそうとしたが、そうすると嘘だってことがばれると思った。
アツコの目にはびくっとしたが、マスオは平然を装って力強く頷いた。
「本当だよ。そんな女、みたことがない」
アツコは少し安心した顔になった。マスオはあの女がどんな人なのか気になって、おそるおそる尋ねた。
「知らない女が尋ねてきたら、何かまずいことでも起きるの?その女はどんな人なの?」
「うん。私もついこの間に、お母様から聞いたんだけど、黒魂は、戦いの嵐がくる前触れだって。黒魂は私にはまだ見えないけど、お母様のようなすごい巫女には見えるらしいの。そして、見つけた黒魂を消滅するの」
「じゃ、あの知らない女も黒魂なの?」
「違う。女も黒魂を消滅しに来たの」
これを聞いたマスオは少し安心した。黒魂を消す人なら悪い人ではない、っていう事を知っただけで、よかったと思った。
「なら、いい人じゃない?」
「違う。女はいい人じゃない。そもそも、女は人ではない。黒魂を食べて、その力を自分の物にする。そして、黒魂の力によって人の形になる、ただの化け物よ」
「化け物?でも、黒魂を消すでしょう?」
「それは全部自分が強い力を得るためだけなの」
「女は力を得てどうするつもり?」
「最後の戦いで勝って、自分の運命の人と一緒にいるためなの」
運命の人、この単語を長月は確かに口にしたのをマスオは覚えている。なら、長月は自分と一緒にいるために黒魂を食べ、強くなるのかなって、マスオは一人、考えた。
「それなら、別に悪い人でもないじゃない。自分の運命の人と一緒にいるために戦うなんて。なんか、切なくていいんじゃない?」
マスオは自然にも、長月の肩を持つような発言をした。
「全然よくないよ。マスオはまだ何も知らないからそんな事が言えるの」
「女が戦う相手は黒魂なの?それとも、アツコのような巫女なの?」
「黒魂と女は同類なの。私たち巫女はただ、人間に危害を与える物を消滅するだけ」
「なら、女とは敵じゃないじゃない。なぜ嫌っているの?一緒に黒魂を消滅すればいいんじゃない」
アツコはマスオの言葉を聞いて、困った顔になった。
「女が現れると、人間の死亡率は急速に上がるから」
「でも、女は人間を襲わないじゃない?」
「女は人間を襲わないけど、人間の心の中にある黒魂を誘き出す力があるの。黒魂を心の中から抜かれた人間は、死ぬか、もっと強力な黒魂を生み出す、この二つの選択しか残されていない」
マスオを言葉を失った。言ってる意味がよく分からないので、消化するのに時間がかかった。
「だから、女が現れると私たち巫女はあちこち歩き回りながら、黒魂を消し、黒魂に傷づけられた人を癒し、黒魂に支配された人の救助にとりかからなければならないの」
「黒魂に支配された人?」
「そう。女が現れて、一部の人間は自分の心に潜んだ黒魂の存在を知り、強い精神力で黒魂を支配し、黒魂の力を使って悪事をするの。もちろん、人間の体をのっとる黒魂もある。……一言で言って、女は災いの導火線となってこの世界に現れるってわけ。だから、本当に大変。うちのお母様も最近、忙しくなってよく顔も見れなかったの。私はまだ一人前になってないから連れていってくれないけどね。私としてはもう立派な巫女になったと思うけどな」
アツコはお茶を一口飲んで、マスオをを見ながらまた何か聞きたいことがある?というふうな眼差しを向けた。
「あっ、そうだ。先アツコは女は自分の同類とも戦うといったよね。女のように、黒魂を食べる人はまたほかにいるってこと?」
「そう。またいる。その事についてはまだ聞いていないの。なら、今夜うちに来ない?お母様がもっと詳しく教えてくれるはずよ」
「でも、忙しいって言ってだじゃない?」
「大丈夫。事情を説明すればきっと家に残るって。それに、マスオが黒魂の姿が見えるってことはとても珍しいから、お母様も理由がわかるかもよ」
マスオはその理由をなんとなくわかっているような気がした。長月という女の子が自分を運命の人って呼んでだから、なんとなく関係があるのではないかと。
いきなりアツコの家を訪れるのは緊張するが、マスオは長月の事をもっと知りたくなって、訪問することに決めた。
「決まりね。じゃ、そろそろ午後の授業が始まるから、教室に戻ろうか」
「うん。戻ろう」
アツコとマスオは立ち上がって教室に向かった。
この時、マスオの頭にふと母さんの面影が浮かんだ。
「アツコ、黒魂が抜かれても死ななかった人は、もっと強い黒魂を生み出すといったよね」
「そうよ。どうした?」
マスオの顔が急に暗くなった。明るくふるまっても、今のマスオに元気付けられることではないと、アツコはなんとなく知った。
「母は今も生きている。ってことは、今、母の心の中には前よりも強い黒魂がいるってことになるの?」
アツコはどう答えればいいか、分らなくなった。
「でも、アツコの母さんは、黒魂を抜かれなかったかもしれないじゃない?だから、今のままだよ。だって、黒魂がつよくなったら、絶対大変な事になったよ。このまま平和にいられるはずないよ」
「本当?」
「本当本当。黒魂を抜かれなくて、そのまま今までの生活をする人間だっていっぱいいるんだから」
現に、黒魂のことを知らずに生活を続く人がいっぱいいるから。
アツコの言葉を聞いて、マスオは少し安心した。しかし心にかかった雲は消えていなかった。
二人は階段をおりながら教室に向かった。
アツコはマスオの母さんの事をずっと考えた。黒魂がもし抜かれなかったら、きっともっと強力な黒魂が生まれるかもしれない。この事をお母様に話して、何か対策しないと。マスオが悲しむ顔が見たくない。黒魂が目覚めず、ずっと心の中で眠ったままになる確率の方が高いが、万が一っていうこともあるから、絶対お母様に頼むことにした。