山をおりた長月はあてもなく、街を歩き始めた。
太陽はすぐ地平線の向こうに沈み、薄い光を放つ月と数え切れるほどの星が、夜空を飾った。長月はちらっと月を見た。来週、ほかの姉妹との戦いが終わったらまた月に戻って次を待つ。今回は好きな人と一緒にいられるように、と願いながら歩いていた。
長月のそばからは、主を見つからず、さまよっている黒魂が通り過ぎたけど、長月はそれらに見向きもしなかった。強い力を持つ黒魂を食べると決めたから。あまりにも力の小さい黒魂を食べても、力にはならないから。
雑魚は主を見つけても、もうもどれない。ほかの黒魂に食べられる道しか残されていない。長月にはご都合だ。
月にいる時に地球の凄まじい変化には驚いたけど、こうやって、直に見ると、本当にすごいね、と長月は思いながら、街の見物を続けた。わずかな時間を過ぎただけで、これほどの進化を遂げるとは、人類の知恵には感服せざるを得ない。長月のわずかな時間は何十年、何百年のことだけど。
歩いていると、脇道が現れた。脇道からは悪の気配が漂ってきた。悪の気配がたまりやすい場所は、極陰地だ。日当たりが悪く、一年中、陰湿な黒闇に包まれる土地である。なので黒魂もよく現れる。なぜなら、極陰地にいると、力が増えるから。
脇道に入って、極陰地の力が一番強いところに長月は立って、黒魂が現れるのを待っていた。
しかし、時間が経つにつれ、極陰地の力は長月によって段々弱まり、やがては消えてしまった。極陰地の悪の気配を吸収できないのが、何より悔しい。長月は極陰地を浄化することしかできない。
長月は完全に消えてしまった極陰地に文句をいいながら、脇道から大通りに出た。
こうなった以上、悩んでいても仕方ないと思った長月はまた獲物を探し始めた。そうするうちに、ちょっと気になった黒魂の気配を感じ取ってしまった。
力は少しあるようだが、長月が食べたいほどの強さでもない。ただ、今まで出会った(山の中で出会った黒魂を除いて)黒魂よりは少しぐらい強いからだ。
気になるのは、これだけではない。
黒魂は黒い線で主とつながっていて、アパートのあちこちを歩きまわっている。そして、ある部屋に止まって、しばらくして離れた。悪いことをしたわけでもなく、食べたいと思ってもいなかったので、長月は見逃すことにした。
これからもっと強くておいしそうな黒魂が待っているかもしれないと思ったから。長月は、このちょっぴり気になった黒魂のことを忘れて、足を急いだ。
街を歩く時に、周囲の人達はずっと、暑い視線を長月に注いだ。もちろん、彼女の足まで長く伸びたきれいな、潤沢のある黒い髪が不思議で。でも、長月はそんな人々の視線をじっとも気にしていなかった。むしろ、喜んでいた。美しいものは見せびらかすものだと思っている。隠しておくともったいないのだ。
いい気分になって、夜の街を歩いていると、前から警察が二人、長月の前に立ちふさがった。
「君、一人なの?」
太い方の警察が先に口を開いた。
「そうだけど。何か?」
「見た目からには、まだ未成年だろう。一人で夜道を歩いちゃいけないよ。危ないから」
痩せた方の警察が今度、口をきいた。
「でも私、未成年じゃないよ。もうとっくに成人になったんだから」
「本当なの?」
太い警察はわざとらしい驚いた顔を作って、言葉を続けた。
「それじゃ、身分証明書を見せてくれない?」
「そんなの持ってないよ」
「じゃ、仕方ないね」
痩せた警察は困った顔をして、太い警察を見つめた。すると、二人の間でアイコンタクトが交わされた。太い警察は軽く口元を吊り上げて、長月に向き直った。
「すぐそこに、交番があるから、一緒に行きましょう」
太い警察はこう言って、先頭に立って歩きだした。痩せた警察は動こうとしない長月を見て、顎で太い警察の後ろ姿をさした。長月に、ついていきなさい、という意味を伝えていた。
二人の警察は長月を連れて、人気の少ない街に入った。
「本当の姿を現したら」
周りには人がなく、三人しか残っていないのをみて、長月は声をかけた。長月はもうとっくにこの警察たちの正体を見破っていた。ただ、先までは町の中だったのでへたなお芝居に付き合っていただけだった。
「これが本当の姿だよ」
太った警察が両手を開いて、これを見なさいといわんばかりに、大げさな身振りをした。
「私がどんな存在なのか、知っているから、こんな人気のない場所に誘い込んだでしょう。だから、つまらない前置きは抜きにして、早く、本番に入ったほうがいいと思うんだけど」
「それもそうだなあ」
痩せた警察が言い終わると、二人の警察の体から、黒魂が出てきた。
「僕はフトック!」
「僕はヤセック!」
「二人合わせて、太痩黒(フトヤセック)!!」
長月は、黒魂が人体から離れて、すぐ攻撃を仕掛けると思っていたが、お笑い芸人のようなことをしたので、あっけにとられた。
「ちょっと、あなたたち。黒魂として、可笑しくない?」
「何が可笑しいんだ!」
フトックという黒魂がふてくされて言い返した。
「黒魂なのに、自分に名前をつけるなんて。もっと可笑しいのは、二人一緒に何をしているの?もしかして漫才?可笑しすぎるよ」
長月は思わず笑い出してしまった。
「フトック、もしかして、僕たちは今、あの子にバカにされた?」
「どうやら、そうみたいね」
「なら、どうすればいい?」
「もちろん、食ってしまえばいいだろう。食ってしまえば、僕たちは力をもらえる」
フトックの話を聞いて、ヤセックは何かを話そうとしたが、長月は一足早く言葉を口に出した。
「ごめんなんだけど、私はあなたたちのような雑魚黒魂には手に負えないよしいて言うなら、あなたたちが私に食べられるけどね。まぁ、見た目と違って、結構の腹ごしらえになると思うけど」
長月の言葉を、黒魂はあんまり気にしていないみたいだ。
「一人が僕たち二人に勝つんだって。そして、僕たちを食べるって。地球についたばっかりなので、黒魂の怖さを知らないのかな?」
ヤセックは笑いをこらえながら言葉を続けた。
「知らないみたい」
「そうだね」
「僕たちを食べることはありえないでしょう」
「そう、ありえない。絶対ありえない」
フトックが相槌を打った。
「だって、二はいつも一より大きいから。一は二に勝てないから」
ヤセックの小学生より低レベルの言葉に、長月はこれ以上こうやって時間を無駄に過ごし必要はないと思った。
「ねぇ、あなたたち。もし、攻撃しないなら、私から攻撃するね」
黒魂の返事も待たないまま、長月は走り出した。
自分たちに走ってくる長月を見た黒魂は防御をしようとせず、話し合いを始めた。
「本当にバカだよね。あの子は」
フトックの言葉にヤセックは大きくうなずいて見せた。
「そうだね。それを身の程知らずと言うんだね」
「うまく言った」
走りながらも、黒魂のやり取りを聞いてしまった。聞かないようにしても、音波を防ぐことはできない。思わず、鼻で笑いだしてしまった。
長月はまず、標的としてはうってつけのフトックを狙って、髪を突き刺した。
しかし、考えとは裏腹に、フトックはいとも簡単に長月の攻撃から、身をかわした。見た目より、体が軽い。
その隙に、ヤスックは長月の後ろに回って、背中に向かって、拳を投げた。
長月はすぐ髪を使って、後ろに髪の壁を作り、ヤスックの拳を防いだ。そしてすぐ、髪の束でドリルの形にしてヤスックの胸を狙った。
ヤスックは自分に突き刺してくる髪のドリルを足で払い、後ろに飛び退いた。
「あなたたち、ただのおバカコンビじゃないみたいね。私も、これからは容赦しなから、覚悟してね」
ヤスックとフトックはすぐ互いに近寄って、話し始めた。
「ねえ、聞いた?容赦しないと言ってた。本当に、生まれたばかりの子犬は、恐ろしいということを知らないね」
「それを言うなら、生まれたばかりの子馬だろう!それに、それはどうでもいいよ。あの子は今僕たちをおバカコンビといったんだぞ!」
ヤスックは急に目を光らせながら話した。
「おバカコンビって、いい響きだよね」
「バカ!感心してどうするんだよ!僕たちのことをからかっているんだぞ」
ヤスックは何かを話そうとしたが、長月はすぐ目の前に来たので、防御の体勢に入った。フトックはヤセックの後ろで、両手を合わせ、何かをぶつぶつ言っているようだ。
「防御だけでは、私の髪を防ぎきれないよ。隙を探し出すのが私の髪の特技だから」
葉月はこう言いいながら攻撃した。すべての髪を一束に巻いて、太くて大きいドリルの形にし、フトックに向けて突き刺した。
すると、ヤスックはうずくまり、自分の前に立っているフトックの両足を掴み、思い切って、長月の髪を横から打ち払った。
意表をついたできことに、長月はよけられず、フトックに髪を打たれてしまった。長月はよろけてから下半身に力をいれ、立ち止まった。
「ほら、僕たちは言ったでしょう。一は二に勝てないって」
ヤスックはフトックを肩にかけて、長月に向かって、あざけるように話した。確かに、フトックのようなでかい武器は打撃面積も、強度も充分にある。
「これで、僕たちの強さがしっかりとわかったでしょう。といっても、少ししか見せられなかったけど、今のうちに降参すれば、痛みを感じられずに、食ってあげることだってできるよ」
「そうそう、苦痛を感じたくなければ、おとなしくいる方が身のためだって」
ヤスックの言葉にフトックは相槌を打った。
そんな二人のやり取りに長月は気にもしなかった。髪を後ろに戻した長月は言い返した。
「まさか、そんなふうに黒魂を使うなって、知らなかった。油断は禁物と言ってるけど、ついついしてしまうんだね。でも、これからは絶対しないから、覚悟してね。黒魂たち」
ヤセックは笑いながら話した。
「フトック、あの子が僕たちに覚悟しなさいと言ったよ。笑っちゃうんだね。先、あんな攻撃を受けたくせに」
「本当本当。あの子に僕の真の姿を見せてあげよ」
「それいいね。それいい!」
ヤスックの言葉が終わると、フトックの体が怪しい黒い煙に包まれた。黒い煙が消え現れたのは、フトックではなく、大きな金槌だ。
「これがフトックの本当の姿だよ。驚いたでしょう。こうなって以上、許しを乞っても、もう遅いから」
ヤスックは自慢げに話した。
「ふっふっ。笑わせることはよくいうよね。今日あう黒魂たちはなぜ、こんなにも知能が足りないかな?バカばかりじゃないの。それとも、この長い間に、黒魂は進化じゃなく、退化したっていうの?」
長月の言葉にヤスックは首をかしげた。
「君がなにを言っているかは知らないけど、僕たちを侮辱していることだけはわかった。本当に許さない。マジで許さない!」
「許さないなら言葉だけでではく、行動でみせて」
長月の言葉が終わると、ヤスックは大きな金槌を振りかざしながら、走り出した。あんなでかい金槌を手にして、よくも走れるんだな、と長月は感心しながら、ヤスックに向かって走り出した。
ヤスックは長月が攻撃できる範囲内に入りとすぐ、金槌を振り下ろした。しかし、長月はやすくかわし、ヤスックの横に近づき、髪を突き刺した。
ヤスックは金槌の柄を握ったまま、飛び上がって、長月の髪の攻撃をかわした。
地面についたヤスックは体を廻した。金槌を持って急速回転するヤスックは長月に向かって、せめて来た。
長月はあせらず、飛び上がって、廻っているヤスックの頭に向かって、髪のドリルを突き出した。長月の攻撃を気づいたヤスックは動きを止めようと努力した。でも、反動もあって、すぐには止まれなかった。
この隙を狙って、長月は髪でヤスックの体を貫いた。
ヤスックは抗ったけど、長月にはかなわなかった。
ヤスックは吸い込まれ、使用者をなくした金槌はもとのフトックの姿に戻った。
「今も一は二に勝てないと信じているの?」
長月はフトックをからかった。
「信じている!それに、僕の体はでかい」
フトックの答えははっきりしていて、少しの迷いもなかった。
「でも、ヤスックはもう私に食べられたよ。あなた一人で私に勝てると思っているの?」
フトックは少し言葉を捜してから、話した。
「一ヒク一はゼロ」
「それで?」
フトックが意味不明の掛け算を問題を口にしたので、長月はちょっとだけ、気になってきた。
「つまり、どちらも勝てないってこと。一言でいうと相打ち」
フトックはあんまりにも自信満々に言うので、長月は思わずふきだしてしまった。
「そんなことはありえないよ。フトック、だったよね?まぁ、あんたみたなバカには死んでもわからないけどね。結局、私に吸い込まれるのよ」
長月の言葉にかまわず、フトックは拳を振り上げて、駆け寄ってきた。長月はよけようとせず、髪を持ち上げて、フトックが間近に来た瞬間を狙って、突き刺した。
髪はフトックの頭から体を貫通した。
「これで、わかったでしょう。一ヒク二は一。一ヒク一も一ってことを」
長月はフトックを吸い込んでから、その場に座った。
人間の体になったばかりなので、疲れが全身を駆け巡った。このままここに座っていてはいけないと思い、長月は無理やり体を起こして、近くにある木の下まで歩いて行き、軽く飛び上がってしっかりとした枝に座り、目をつぶった。
明日になったら、もっと強力な黒魂を探そうと、心の中で願いながら、眠りに入った。そして、あの人も探さないと……。
そう、運命の人。今回も運命の人と恋をして一緒になるために地球に降りてきたんだから。その前に大きな力を身につけないと。大きな力を身につけて、ほかの競争者たちを打ちのめさないと、運命の人と一緒にいられない。
太陽はすぐ地平線の向こうに沈み、薄い光を放つ月と数え切れるほどの星が、夜空を飾った。長月はちらっと月を見た。来週、ほかの姉妹との戦いが終わったらまた月に戻って次を待つ。今回は好きな人と一緒にいられるように、と願いながら歩いていた。
長月のそばからは、主を見つからず、さまよっている黒魂が通り過ぎたけど、長月はそれらに見向きもしなかった。強い力を持つ黒魂を食べると決めたから。あまりにも力の小さい黒魂を食べても、力にはならないから。
雑魚は主を見つけても、もうもどれない。ほかの黒魂に食べられる道しか残されていない。長月にはご都合だ。
月にいる時に地球の凄まじい変化には驚いたけど、こうやって、直に見ると、本当にすごいね、と長月は思いながら、街の見物を続けた。わずかな時間を過ぎただけで、これほどの進化を遂げるとは、人類の知恵には感服せざるを得ない。長月のわずかな時間は何十年、何百年のことだけど。
歩いていると、脇道が現れた。脇道からは悪の気配が漂ってきた。悪の気配がたまりやすい場所は、極陰地だ。日当たりが悪く、一年中、陰湿な黒闇に包まれる土地である。なので黒魂もよく現れる。なぜなら、極陰地にいると、力が増えるから。
脇道に入って、極陰地の力が一番強いところに長月は立って、黒魂が現れるのを待っていた。
しかし、時間が経つにつれ、極陰地の力は長月によって段々弱まり、やがては消えてしまった。極陰地の悪の気配を吸収できないのが、何より悔しい。長月は極陰地を浄化することしかできない。
長月は完全に消えてしまった極陰地に文句をいいながら、脇道から大通りに出た。
こうなった以上、悩んでいても仕方ないと思った長月はまた獲物を探し始めた。そうするうちに、ちょっと気になった黒魂の気配を感じ取ってしまった。
力は少しあるようだが、長月が食べたいほどの強さでもない。ただ、今まで出会った(山の中で出会った黒魂を除いて)黒魂よりは少しぐらい強いからだ。
気になるのは、これだけではない。
黒魂は黒い線で主とつながっていて、アパートのあちこちを歩きまわっている。そして、ある部屋に止まって、しばらくして離れた。悪いことをしたわけでもなく、食べたいと思ってもいなかったので、長月は見逃すことにした。
これからもっと強くておいしそうな黒魂が待っているかもしれないと思ったから。長月は、このちょっぴり気になった黒魂のことを忘れて、足を急いだ。
街を歩く時に、周囲の人達はずっと、暑い視線を長月に注いだ。もちろん、彼女の足まで長く伸びたきれいな、潤沢のある黒い髪が不思議で。でも、長月はそんな人々の視線をじっとも気にしていなかった。むしろ、喜んでいた。美しいものは見せびらかすものだと思っている。隠しておくともったいないのだ。
いい気分になって、夜の街を歩いていると、前から警察が二人、長月の前に立ちふさがった。
「君、一人なの?」
太い方の警察が先に口を開いた。
「そうだけど。何か?」
「見た目からには、まだ未成年だろう。一人で夜道を歩いちゃいけないよ。危ないから」
痩せた方の警察が今度、口をきいた。
「でも私、未成年じゃないよ。もうとっくに成人になったんだから」
「本当なの?」
太い警察はわざとらしい驚いた顔を作って、言葉を続けた。
「それじゃ、身分証明書を見せてくれない?」
「そんなの持ってないよ」
「じゃ、仕方ないね」
痩せた警察は困った顔をして、太い警察を見つめた。すると、二人の間でアイコンタクトが交わされた。太い警察は軽く口元を吊り上げて、長月に向き直った。
「すぐそこに、交番があるから、一緒に行きましょう」
太い警察はこう言って、先頭に立って歩きだした。痩せた警察は動こうとしない長月を見て、顎で太い警察の後ろ姿をさした。長月に、ついていきなさい、という意味を伝えていた。
二人の警察は長月を連れて、人気の少ない街に入った。
「本当の姿を現したら」
周りには人がなく、三人しか残っていないのをみて、長月は声をかけた。長月はもうとっくにこの警察たちの正体を見破っていた。ただ、先までは町の中だったのでへたなお芝居に付き合っていただけだった。
「これが本当の姿だよ」
太った警察が両手を開いて、これを見なさいといわんばかりに、大げさな身振りをした。
「私がどんな存在なのか、知っているから、こんな人気のない場所に誘い込んだでしょう。だから、つまらない前置きは抜きにして、早く、本番に入ったほうがいいと思うんだけど」
「それもそうだなあ」
痩せた警察が言い終わると、二人の警察の体から、黒魂が出てきた。
「僕はフトック!」
「僕はヤセック!」
「二人合わせて、太痩黒(フトヤセック)!!」
長月は、黒魂が人体から離れて、すぐ攻撃を仕掛けると思っていたが、お笑い芸人のようなことをしたので、あっけにとられた。
「ちょっと、あなたたち。黒魂として、可笑しくない?」
「何が可笑しいんだ!」
フトックという黒魂がふてくされて言い返した。
「黒魂なのに、自分に名前をつけるなんて。もっと可笑しいのは、二人一緒に何をしているの?もしかして漫才?可笑しすぎるよ」
長月は思わず笑い出してしまった。
「フトック、もしかして、僕たちは今、あの子にバカにされた?」
「どうやら、そうみたいね」
「なら、どうすればいい?」
「もちろん、食ってしまえばいいだろう。食ってしまえば、僕たちは力をもらえる」
フトックの話を聞いて、ヤセックは何かを話そうとしたが、長月は一足早く言葉を口に出した。
「ごめんなんだけど、私はあなたたちのような雑魚黒魂には手に負えないよしいて言うなら、あなたたちが私に食べられるけどね。まぁ、見た目と違って、結構の腹ごしらえになると思うけど」
長月の言葉を、黒魂はあんまり気にしていないみたいだ。
「一人が僕たち二人に勝つんだって。そして、僕たちを食べるって。地球についたばっかりなので、黒魂の怖さを知らないのかな?」
ヤセックは笑いをこらえながら言葉を続けた。
「知らないみたい」
「そうだね」
「僕たちを食べることはありえないでしょう」
「そう、ありえない。絶対ありえない」
フトックが相槌を打った。
「だって、二はいつも一より大きいから。一は二に勝てないから」
ヤセックの小学生より低レベルの言葉に、長月はこれ以上こうやって時間を無駄に過ごし必要はないと思った。
「ねぇ、あなたたち。もし、攻撃しないなら、私から攻撃するね」
黒魂の返事も待たないまま、長月は走り出した。
自分たちに走ってくる長月を見た黒魂は防御をしようとせず、話し合いを始めた。
「本当にバカだよね。あの子は」
フトックの言葉にヤセックは大きくうなずいて見せた。
「そうだね。それを身の程知らずと言うんだね」
「うまく言った」
走りながらも、黒魂のやり取りを聞いてしまった。聞かないようにしても、音波を防ぐことはできない。思わず、鼻で笑いだしてしまった。
長月はまず、標的としてはうってつけのフトックを狙って、髪を突き刺した。
しかし、考えとは裏腹に、フトックはいとも簡単に長月の攻撃から、身をかわした。見た目より、体が軽い。
その隙に、ヤスックは長月の後ろに回って、背中に向かって、拳を投げた。
長月はすぐ髪を使って、後ろに髪の壁を作り、ヤスックの拳を防いだ。そしてすぐ、髪の束でドリルの形にしてヤスックの胸を狙った。
ヤスックは自分に突き刺してくる髪のドリルを足で払い、後ろに飛び退いた。
「あなたたち、ただのおバカコンビじゃないみたいね。私も、これからは容赦しなから、覚悟してね」
ヤスックとフトックはすぐ互いに近寄って、話し始めた。
「ねえ、聞いた?容赦しないと言ってた。本当に、生まれたばかりの子犬は、恐ろしいということを知らないね」
「それを言うなら、生まれたばかりの子馬だろう!それに、それはどうでもいいよ。あの子は今僕たちをおバカコンビといったんだぞ!」
ヤスックは急に目を光らせながら話した。
「おバカコンビって、いい響きだよね」
「バカ!感心してどうするんだよ!僕たちのことをからかっているんだぞ」
ヤスックは何かを話そうとしたが、長月はすぐ目の前に来たので、防御の体勢に入った。フトックはヤセックの後ろで、両手を合わせ、何かをぶつぶつ言っているようだ。
「防御だけでは、私の髪を防ぎきれないよ。隙を探し出すのが私の髪の特技だから」
葉月はこう言いいながら攻撃した。すべての髪を一束に巻いて、太くて大きいドリルの形にし、フトックに向けて突き刺した。
すると、ヤスックはうずくまり、自分の前に立っているフトックの両足を掴み、思い切って、長月の髪を横から打ち払った。
意表をついたできことに、長月はよけられず、フトックに髪を打たれてしまった。長月はよろけてから下半身に力をいれ、立ち止まった。
「ほら、僕たちは言ったでしょう。一は二に勝てないって」
ヤスックはフトックを肩にかけて、長月に向かって、あざけるように話した。確かに、フトックのようなでかい武器は打撃面積も、強度も充分にある。
「これで、僕たちの強さがしっかりとわかったでしょう。といっても、少ししか見せられなかったけど、今のうちに降参すれば、痛みを感じられずに、食ってあげることだってできるよ」
「そうそう、苦痛を感じたくなければ、おとなしくいる方が身のためだって」
ヤスックの言葉にフトックは相槌を打った。
そんな二人のやり取りに長月は気にもしなかった。髪を後ろに戻した長月は言い返した。
「まさか、そんなふうに黒魂を使うなって、知らなかった。油断は禁物と言ってるけど、ついついしてしまうんだね。でも、これからは絶対しないから、覚悟してね。黒魂たち」
ヤセックは笑いながら話した。
「フトック、あの子が僕たちに覚悟しなさいと言ったよ。笑っちゃうんだね。先、あんな攻撃を受けたくせに」
「本当本当。あの子に僕の真の姿を見せてあげよ」
「それいいね。それいい!」
ヤスックの言葉が終わると、フトックの体が怪しい黒い煙に包まれた。黒い煙が消え現れたのは、フトックではなく、大きな金槌だ。
「これがフトックの本当の姿だよ。驚いたでしょう。こうなって以上、許しを乞っても、もう遅いから」
ヤスックは自慢げに話した。
「ふっふっ。笑わせることはよくいうよね。今日あう黒魂たちはなぜ、こんなにも知能が足りないかな?バカばかりじゃないの。それとも、この長い間に、黒魂は進化じゃなく、退化したっていうの?」
長月の言葉にヤスックは首をかしげた。
「君がなにを言っているかは知らないけど、僕たちを侮辱していることだけはわかった。本当に許さない。マジで許さない!」
「許さないなら言葉だけでではく、行動でみせて」
長月の言葉が終わると、ヤスックは大きな金槌を振りかざしながら、走り出した。あんなでかい金槌を手にして、よくも走れるんだな、と長月は感心しながら、ヤスックに向かって走り出した。
ヤスックは長月が攻撃できる範囲内に入りとすぐ、金槌を振り下ろした。しかし、長月はやすくかわし、ヤスックの横に近づき、髪を突き刺した。
ヤスックは金槌の柄を握ったまま、飛び上がって、長月の髪の攻撃をかわした。
地面についたヤスックは体を廻した。金槌を持って急速回転するヤスックは長月に向かって、せめて来た。
長月はあせらず、飛び上がって、廻っているヤスックの頭に向かって、髪のドリルを突き出した。長月の攻撃を気づいたヤスックは動きを止めようと努力した。でも、反動もあって、すぐには止まれなかった。
この隙を狙って、長月は髪でヤスックの体を貫いた。
ヤスックは抗ったけど、長月にはかなわなかった。
ヤスックは吸い込まれ、使用者をなくした金槌はもとのフトックの姿に戻った。
「今も一は二に勝てないと信じているの?」
長月はフトックをからかった。
「信じている!それに、僕の体はでかい」
フトックの答えははっきりしていて、少しの迷いもなかった。
「でも、ヤスックはもう私に食べられたよ。あなた一人で私に勝てると思っているの?」
フトックは少し言葉を捜してから、話した。
「一ヒク一はゼロ」
「それで?」
フトックが意味不明の掛け算を問題を口にしたので、長月はちょっとだけ、気になってきた。
「つまり、どちらも勝てないってこと。一言でいうと相打ち」
フトックはあんまりにも自信満々に言うので、長月は思わずふきだしてしまった。
「そんなことはありえないよ。フトック、だったよね?まぁ、あんたみたなバカには死んでもわからないけどね。結局、私に吸い込まれるのよ」
長月の言葉にかまわず、フトックは拳を振り上げて、駆け寄ってきた。長月はよけようとせず、髪を持ち上げて、フトックが間近に来た瞬間を狙って、突き刺した。
髪はフトックの頭から体を貫通した。
「これで、わかったでしょう。一ヒク二は一。一ヒク一も一ってことを」
長月はフトックを吸い込んでから、その場に座った。
人間の体になったばかりなので、疲れが全身を駆け巡った。このままここに座っていてはいけないと思い、長月は無理やり体を起こして、近くにある木の下まで歩いて行き、軽く飛び上がってしっかりとした枝に座り、目をつぶった。
明日になったら、もっと強力な黒魂を探そうと、心の中で願いながら、眠りに入った。そして、あの人も探さないと……。
そう、運命の人。今回も運命の人と恋をして一緒になるために地球に降りてきたんだから。その前に大きな力を身につけないと。大きな力を身につけて、ほかの競争者たちを打ちのめさないと、運命の人と一緒にいられない。