ついに告白できたので、桃色はほっとしたようだ。どこか安堵に似た表情と、不安のまなざしが僕の胸を痛めている。桃色が嫌いではない。でも、恋人にしようと思ったことは一度もない。それに、今、僕の心には葉月一人きりだ。

桃色の告白を聞いて僕はこの情況をどうすればいいか、正直に困った。桃色の心を傷付けずに、うまく断れるかを必死で考えた。

僕の困っている顔を見て、桃色は震える声で恐る恐るきいた。

「私が、嫌いなの?」

「そうじゃないよ」

僕は直ちに否定した。嫌いじゃない。かどいって、恋人にできるほどすきでもない。

「それじゃ、好きだよね」

桃色の顔はぱあっとほころびた。つぶらな目は僕の顔を窺っている。何かを確かめている。

僕の困った顔を見て、桃色の顔も暗くなった。

「私が嫌いなのね?」

僕は頭を振った。

「じゃ、好きなの?」

これにも僕は頭を振るしかなかった。

「じゃ、何で?理由を教えて」

桃色は自分の感情をこれ以上、抑えきれないらしく、身体が激しく震えていた。桃色の目からは憎しみが溢れていた。いつも明るくふるまっている桃色のこの顔、初めてみた。

僕は桃色に気おされて、つぶやきのような声で話した。

「桃色は僕にとって大切な友達だよ。時にはかわいい妹のようにも見える。それ以上もそれ以下の関係を考えたことは一度もなかった」

桃色は少しずつ平静を取り戻した。自分の感情を制御できたみたいだ。

「なぜ私のことを好きになってはくれないの?」

「先も言ったように、サクラは僕にとって大切な友達だ」

僕のこの言葉は桃色の心の中のあるスイッチを押したらしく、桃色の身体から黒い煙が吹き出てきて桃色の全身を包んだ。

「友達!私は嫌よ!恋人になりたいんだから!」

これってまさか黒魂?桃色の心にも黒魂が宿っているってこと?

目の前の情景に押されて、僕は少しずつ後ずさった。どうすることもなく驚いている僕の傍に、葉月がやってきて、僕の手を掴み、リビングルームを渡ってベランダから飛び降りた。

「あの女のせいね!あの女がいるからフモトは私のことを好きになってくれないんだね!」

後ろから桃色の怒りにあふれた叫び声が聞こえてきた。

「あれって黒魂だよね?サクラも黒魂に支配されたの?」

地面についてから、僕は葉月に聞いた。

「支配されたかどうかはわからない」

葉月は僕を連れて大通りに向かって走った。角にちょうど空きのタクシーがあったので、僕たちは乗り込んだ。

「北山に向かってください」

僕は桃色が追ってくるかどうか外を確かめながら運転士に叫んだ。

運転士は何も言わず車を動かした。

人気の少ない場所の北山は昔からお化けが出るという噂で、誰も近寄らない。たまには肝試しをする人もいるけど、日曜日には肝試しをする人など無いと思った。タクシーは僕と葉月を載せて北山の方に向かった。

北山の麓についた。

お金を渡す時に運転士の手に触れたけど、その時、恐怖に似た電流が僕の体を走った。僕は運転士の顔を確かめたくてみようとしたのだら、帽子の影に隠れてよくみれなかった。

タクシーから折れた僕らは山を登った。麓には家族連れが何組いたので、人気の少ないと思う山の奥を目指した。