葉月が今言った言葉をどう受け止めるべきだろう。僕が死んだなんて、本当なのかな？いやいや、僕は今こうやって歩いているし、空気も吸っているし、話してもいる。これが死んだ人のできることではない。それに、僕が幽霊のはずもない。ちゃんと物に障れるし。

「僕が死んだ？」

信じられなくて、僕はもう一度聞き返した。

「うん、死んだ」

僕はひそかに自分の聞き間違えだと信じていたけど、どうやら、僕が死んだ事実は確定のようだ。

「でも、でも、僕は現にこうして生きているんじゃない？どういうこと？」

「一時的の延命」

「どういうこと？」

葉月は黙って僕をみつめた。意を決したような表情で、わけを話してくれた。

葉月の話によると、運転士のおたまじゃくしが僕の頭の中に入った時から、僕はもう死んだ人になったそうだ。おたまじゃくしに操られている意識のある屍ってわけだ。葉月はあの時、どうにか方法を必死に考えてたけど、結局、いい方法がなかった。

おたまじゃくしが僕の頭の中に入った瞬間、僕はもうしんだんだから。

「じゃ、僕の今の状態は？」

「私の命を分けた。私が地球にいる間は延命できるが、私がいなくなったら」

葉月はあえてはっきりと言わなかった。

僕は、自分がもう死んだことをどうやって受け止めるか初めて考えるようになった。今もこうして息をしているので実感がわかないが、葉月がいなくなって、僕は本当の死を迎えたら、パパとママはきっと悲しむだろう。それに、桃色も。僕のだった一人の友達として幼なじみ。

「ごめん」

僕が悩んでいるのを見た葉月が、小さな声で謝った。

「いやいや、そんなこと言わなくてもいいよ。もともと、僕が勝手に葉月に、違う世界を見せてくれって頼んだから」

葉月はまだ何かを言おうとしたが、僕は片手をあげて制した。

「それより、早く次の黒魂を探しに行こう！」

僕は自分が死んだことを忘れたく、あえて明るい声を出した。そんな僕の意地に葉月は何も言わず、玄関の方を見つめた。

葉月につられて僕も玄関の方をみると、ノックの音がした。こんな時間に誰だろう？

ドアを開けるとそこに立っているのは桃色だった。

「桃色！どうしてここに来たの？」

笑顔だった桃色の顔は僕の言葉を聞いて突然と暗くなった。

「僕は来ちゃ駄目なの？」

「い、いや。そうゆうわけではなくて……」

僕は慌てて言い訳を捜した。

「ほら。明日からは模擬試験でしょう。受験勉強はしないの？」

「私、私は」

あんなに饒舌だった桃色のこんな姿は初めてだ。よくみると、顔は真っ赤になっていた。

桃色は迷ってからやっと意を決したらしく、言葉を続けた。

「フモトに会いにきたの」

「うん？僕に会いたいって？僕と会っても、僕は桃色の勉強になんの助けもできないよ。僕の成績は桃色よりずっとうしろだから」

桃色は頭を横に振った。

「そういう意味じゃないの。私は」

桃色は頭を上げて僕を見たが、目は泳いでいた。視線がやっと僕の目とぶつかった。僕は桃色の視線に妙な感じを受けずにはいられなかった。認めたくないけど、桃色がいおうとしたことがなんとなく分ったような気がした。

「フモト。私は、私はあなたが、、好きなの」