スーパーについた僕はまず冷凍食品コーナーへ向かった。葉月がすきそうな冷凍食品をかごの中に詰め込んだ。それから僕の好きな食パンとジャム、ジュースを買った。
また何か買うものがないか、あてもなくスーパーの中でぶらぶらしていると、僕の目に見おぼえのある後ろ姿が入ってきた。
ほかの誰でもなく葉月だ。
僕は小走りして葉月の傍まで行った。
「これもお願い」
近づいてきたのが僕だと最初からわかったようだ。振り向きながら手に取った物をかごの中に入れた。見ると、冷凍ギョーザだ。かごの中にある物の半分が冷凍ギョーザだ。
「これを買いに出てきたの?」
僕が聞いた。
「違う、獲物があるから来ただけ」
「獲物ってまさか黒魂?でも、ここはスーパーだよ。こんなにたくさんの人がいるところで戦うなんて……」
言いながら僕は当たりを見まわした。
どういうことか、店には誰も見えなくなった。いつの間にこうになったのだろう。
「人が少ないね」
「帰らせた」
「帰らせた?どうやって?」
「髪を頭に植え込んだ」
「髪でそんなこともできるんだ。……じゃ、黒魂はどこにあるの?」
葉月は何も言わず歩き出した。
僕たちは近くにある試食コーナーに来た。店内に唯一残っている人だ。僕と葉月を除いては。
おいしい焼肉のにおいが鼻をついた。晩ご飯に焼肉を食べるのも悪くないと、一人考えていた。場違いとは思いながらも。
「あら、いらっしゃい、そこの恋人。今夜のおかずに高級和牛の焼肉はいかが、肉がとっても柔らかいの。口の中でどろ~っととろけるよ。それに味付けができているので、焼くだけ。今買うなら、焼肉専用ソースも無料だよ」
焼肉のにおいが僕の食欲を刺激している。
葉月は何も言わず店員のおばさんをじっと見つめた。
「試食にきたようすではないようね、じゃ、あんたたちもやいてあげましょうか?お客さん」
サービス笑顔ですらっと怖いことを話すおばさん。
葉月は何も答えず、肉を一口食べた。
「これも結構おいしい。あなたほどでもないと思うけど」
おばさんは急に気持ち悪い声で笑いだした。
「あたしね、争いことが大嫌いなの。心にある黒魂もちゃんと妥協して、人を傷つけることだけはしないと約束したの……」
「でも、もう人を殺したでしょう」
葉月はおばさんの言葉を遮って話した。
「だって、仕方がありませんもの。あいつらが悪いから。どっかのクズだかしらないけど、毎日毎日試食しにくるんだよ。いっぱい食べて、結局何も買わないんだよ。それに、味にはいやなほどしつこくて、焼き具合がまだだの、味付けが薄いだのと。毎日相手にしたら殺したくもなるわよ」
ここでいったん言葉を切り、おいしく焼いた肉を皿に移して、また話をつづけた。
「今日も時間ぴったりに来たんだよ。お母さんといったら、自分の息子二人をこっちにおいて一人どっかへいったのよ。ずっとこらえてきたけど、今日はなぜか糸が切れたみたいなの。黒魂が一緒にいたからかもしれないけど……んで言ってやったの、『一人一口ずつしかあげられない』って。すると、二人とも急に泣き出して、それからは大変な騒ぎになったよ。結果的にはあたしが頭を下げて謝ることになったから、納得できなかったの」
「それで殺したんだ」
「そうよ。殺したの、今は倉庫の冷凍庫に置いてあるよ。あとで焼いてみようと思ったんだけど。おいしいかどうかじゃなく、ただ味が気になって。ほら、人の肉を食べる機会って、普通いないでしょう?」
おばさんはトングで肉をつまみ、葉月の前に突き出した。
「これ、いい具合に焼いているよ」
葉月は無視し、息を大きく吸った。
「吸わせないよ」
こういいながらおばさんは稲妻のスピードで葉月の髪を掴み、グリルに押し付けようとした。あんまりの速さに葉月もよけられなかった。掴まれたままグリルに押し付けられると思うと、葉月は左手で机ごと払い、あらかじめ右手に用意した髪を放った。
髪は一瞬にして長くなり、おばさんは髪をよけるため、葉月を離さずにはいられなかった。
「あたしね、肉を焼く時の音が大好きなの。だから、あんたも焼いてあげるわ!」
おばさんは右手を真っすぐ伸びると、その掌から黒くて太い糸のような物体が伸びてきて、地面に転がっているグリルにべったりとくっ付いた。すると、右手を葉月目当てに払うと、グリルに張り付けた黒い物はゴムのように伸びて、飛んでいった。
難なく交わした葉月は髪をむしり取り、おばさんに投げつけた。
おばさんはグリルを自分の前に構えた。
飛んで行った髪はグリルに焼かれ、ジリジリと音を出した。
「この音だよ。いいんじゃない?あんたもいい音を出せそうだね。早く焼いてみたいね!」
「話が多い」
「この年になると、誰かに話しを聞いてもらうことが生きがいにもなってくるのだよ。わかってほしいね」
「愚痴ばかりのおばさん、嫌われ者にしかならない」
「あらら、あんたに嫌われたみたいね。でもいいのよ。もうすぐあたしの食べ物になるものに好かれるのもなんだかと思うけど……食材を調理するにはタイミングってもんがあってね、あんたを焼くタイミングも逃しちゃいけないから、そろそろ本気だすよ!」
言い終わると、おばさんの攻撃はますます激しくなった。グリルを振り回すその動き、生き物が動いているようだ。
一つ一つの攻撃を葉月は難なく交わしながら、反撃をした。ただ、髪はおばさんに近づけず、むなしく焼かれた。
「本気を足すといった割には、攻撃がつまらない」
「こんな攻撃が気に入らないの?でも、その体はいつまでもつのかなぁ」
このままでは、どっちかの体力が先に底をつくのかが勝利の鍵になるかもしれない。
また何か買うものがないか、あてもなくスーパーの中でぶらぶらしていると、僕の目に見おぼえのある後ろ姿が入ってきた。
ほかの誰でもなく葉月だ。
僕は小走りして葉月の傍まで行った。
「これもお願い」
近づいてきたのが僕だと最初からわかったようだ。振り向きながら手に取った物をかごの中に入れた。見ると、冷凍ギョーザだ。かごの中にある物の半分が冷凍ギョーザだ。
「これを買いに出てきたの?」
僕が聞いた。
「違う、獲物があるから来ただけ」
「獲物ってまさか黒魂?でも、ここはスーパーだよ。こんなにたくさんの人がいるところで戦うなんて……」
言いながら僕は当たりを見まわした。
どういうことか、店には誰も見えなくなった。いつの間にこうになったのだろう。
「人が少ないね」
「帰らせた」
「帰らせた?どうやって?」
「髪を頭に植え込んだ」
「髪でそんなこともできるんだ。……じゃ、黒魂はどこにあるの?」
葉月は何も言わず歩き出した。
僕たちは近くにある試食コーナーに来た。店内に唯一残っている人だ。僕と葉月を除いては。
おいしい焼肉のにおいが鼻をついた。晩ご飯に焼肉を食べるのも悪くないと、一人考えていた。場違いとは思いながらも。
「あら、いらっしゃい、そこの恋人。今夜のおかずに高級和牛の焼肉はいかが、肉がとっても柔らかいの。口の中でどろ~っととろけるよ。それに味付けができているので、焼くだけ。今買うなら、焼肉専用ソースも無料だよ」
焼肉のにおいが僕の食欲を刺激している。
葉月は何も言わず店員のおばさんをじっと見つめた。
「試食にきたようすではないようね、じゃ、あんたたちもやいてあげましょうか?お客さん」
サービス笑顔ですらっと怖いことを話すおばさん。
葉月は何も答えず、肉を一口食べた。
「これも結構おいしい。あなたほどでもないと思うけど」
おばさんは急に気持ち悪い声で笑いだした。
「あたしね、争いことが大嫌いなの。心にある黒魂もちゃんと妥協して、人を傷つけることだけはしないと約束したの……」
「でも、もう人を殺したでしょう」
葉月はおばさんの言葉を遮って話した。
「だって、仕方がありませんもの。あいつらが悪いから。どっかのクズだかしらないけど、毎日毎日試食しにくるんだよ。いっぱい食べて、結局何も買わないんだよ。それに、味にはいやなほどしつこくて、焼き具合がまだだの、味付けが薄いだのと。毎日相手にしたら殺したくもなるわよ」
ここでいったん言葉を切り、おいしく焼いた肉を皿に移して、また話をつづけた。
「今日も時間ぴったりに来たんだよ。お母さんといったら、自分の息子二人をこっちにおいて一人どっかへいったのよ。ずっとこらえてきたけど、今日はなぜか糸が切れたみたいなの。黒魂が一緒にいたからかもしれないけど……んで言ってやったの、『一人一口ずつしかあげられない』って。すると、二人とも急に泣き出して、それからは大変な騒ぎになったよ。結果的にはあたしが頭を下げて謝ることになったから、納得できなかったの」
「それで殺したんだ」
「そうよ。殺したの、今は倉庫の冷凍庫に置いてあるよ。あとで焼いてみようと思ったんだけど。おいしいかどうかじゃなく、ただ味が気になって。ほら、人の肉を食べる機会って、普通いないでしょう?」
おばさんはトングで肉をつまみ、葉月の前に突き出した。
「これ、いい具合に焼いているよ」
葉月は無視し、息を大きく吸った。
「吸わせないよ」
こういいながらおばさんは稲妻のスピードで葉月の髪を掴み、グリルに押し付けようとした。あんまりの速さに葉月もよけられなかった。掴まれたままグリルに押し付けられると思うと、葉月は左手で机ごと払い、あらかじめ右手に用意した髪を放った。
髪は一瞬にして長くなり、おばさんは髪をよけるため、葉月を離さずにはいられなかった。
「あたしね、肉を焼く時の音が大好きなの。だから、あんたも焼いてあげるわ!」
おばさんは右手を真っすぐ伸びると、その掌から黒くて太い糸のような物体が伸びてきて、地面に転がっているグリルにべったりとくっ付いた。すると、右手を葉月目当てに払うと、グリルに張り付けた黒い物はゴムのように伸びて、飛んでいった。
難なく交わした葉月は髪をむしり取り、おばさんに投げつけた。
おばさんはグリルを自分の前に構えた。
飛んで行った髪はグリルに焼かれ、ジリジリと音を出した。
「この音だよ。いいんじゃない?あんたもいい音を出せそうだね。早く焼いてみたいね!」
「話が多い」
「この年になると、誰かに話しを聞いてもらうことが生きがいにもなってくるのだよ。わかってほしいね」
「愚痴ばかりのおばさん、嫌われ者にしかならない」
「あらら、あんたに嫌われたみたいね。でもいいのよ。もうすぐあたしの食べ物になるものに好かれるのもなんだかと思うけど……食材を調理するにはタイミングってもんがあってね、あんたを焼くタイミングも逃しちゃいけないから、そろそろ本気だすよ!」
言い終わると、おばさんの攻撃はますます激しくなった。グリルを振り回すその動き、生き物が動いているようだ。
一つ一つの攻撃を葉月は難なく交わしながら、反撃をした。ただ、髪はおばさんに近づけず、むなしく焼かれた。
「本気を足すといった割には、攻撃がつまらない」
「こんな攻撃が気に入らないの?でも、その体はいつまでもつのかなぁ」
このままでは、どっちかの体力が先に底をつくのかが勝利の鍵になるかもしれない。