目が醒めた。時計を見たら朝の五時だ。昨日早く寝たおかげか、それとも葉月の髪のおかげか、ずいぶんと早く起きたもんだ。
金曜日なので、学校へ行かなければいかない。昨日の事もあって、今日は体調不良ということで休めようと思っていたが、痛みなどはなく、いつもより爽快な気分さえした。胸を見ると葉月が刺した髪はもういなくなった。
ふと、公園で戦いが終わったことが頭の中をよぎった。
戦いが終わると、周囲が静寂に包まれた。葉月は目を閉じたまま動いていない。僕は彼女の頭をそっと僕の膝の上に置いた。僕の胸では彼女の髪がまた淡い光を放っている。このままでいると、傷口は塞がれて治るだろう。
夜風が生臭い血の匂いを運んできた。二人の犠牲者、無残さ骸。
ぼっと向こうの闇を見つめていると、葉月の呻く声が聞こえた。
「起きたの?体は大丈夫?」
葉月は体を起こしながら大丈夫と答えた。
「死体はどうすればいい?このままここに放置するの?」
「ほかに何かできる?」
正直に言ってできない。
葉月は公園の出口に向かって歩きだした。僕はすぐついて行った。
「気になったことがあるけど」
僕は遠慮がちに話した。
「何?」
「被害者の女性の彼氏たちはどこへ消えたのかな?もし、あの店員に殺されたなら死体はあるはずだよね。彼らの死体を探しだして警察の仕事を減らしてもいいじゃないか、と思って」
「彼らの死体はもうない」
「ない?どういうこと?」
葉月のぶっきらぼうな答えに、僕は少々びっくりした。
「もう、死体とは言えないこと」
葉月は前に進みながら話をつづけた。
「花が咲くために必要なのはなんだと思う?」
葉月の以外が言葉に一瞬、言葉が詰まったけど、すぐ答えた。
「光と水と、それから肥料かな。なんでそんなこと聞くの?」
「公園には光が十分にいる。水の血で十分だろう。じゃ、残りの肥料はどこから調達すると思う?
」
「わからない」
僕は頭を横に振った。
「肥料は彼女たちの彼氏」
「えっ!」
葉月の回答にあっけにとられた。彼氏が肥料だなって、いったいどういうことなんだろう。
「店員は彼女たちの彼氏を鋏でみじん切りにして土に埋めた。その場所に彼女を花として飾った。これが事実ってこと」
急に吐き気がしそうになったのを必死で我慢した。
「彼らの体はもうもとには戻れないんだね」
僕の問に葉月はうなずいただけだった。
それから僕たちは何も言わず黙々と家に向かった。夜も深かったので町には人が少なかった。夜に包まれた、僕たちの服を染まった血の跡もよくみれないので、助かった。血まみれの二人が歩くのはたちまち大騒ぎになる。
家について僕は葉月にシャワーを勧めた。
葉月はバスルームに入る前、振り返ってこう言った。
「明日は学校行きなさい」と。
葉月が言ったので逆らう気はなかった。理由を聞きたかったけど、シャワーを浴びて出てきた葉月は真っすぐ僕の部屋に入った。僕もさっさとシャワーを浴びてソファーで横になった。
軽く朝食を済ませてから、僕は家を出た。
教室に入り、自分の席についた。なんだか、学校も久しぶりの気がした。気のせいだけど。
葉月に会ってから、周りにいる人達はどんな黒魂を抱いているのかな?と考えるようになった。
授業は始まるとやはり退屈にしか感じない。自分の人生についてまじめに考えたことはなかったけど、つまらない今日をうまく過ごせたら、つまらない明日も過ごせる気がした。葉月に出会ってからはつまらなくはならないけど。
「昨日どこへ行ったの:?」
先生が入ってきたにも構わず、前の席に座る桃色は体をねじって話かけてきた。
「どこへ行ったの?返事してよ。昨日、電話したけど返事くれないし。心配で家に言ったけど誰も。せっかく新しいゲームソフトを買ったのに^」
ゲームオタクだ、桃色は。同じゲーム好きの僕とよく遊んだ。
「ちょっとね」
「だから、どこへ行ったのかを聞いているの?」
「少し用事があってね」
「どんな用事なの?」
「兄さんはいろいろな用事があるの。いつも遊び相手になってあげないよ」
「桃色と同じ年でしょう」
「しかし、僕は桃色より二ヶ月早く生まれたから、兄さんだよ」
桃色とひそひそと話していると、先生に注意された。僕はすぐ本を取り出し、読んでいるふりをした。
どうやって時間が過ぎたかはしらない。気付いたら、もう昼休みになっている。僕はもともとパンで昼ご飯をすまそうとしたけど、桃色がむりやり僕を食堂へ連れて行った。
食堂には生徒が少なかった。僕と桃色はご飯がのってあるトレーを持って、空いている席にすわった。坐るなり、桃色はまた僕が昨日どこへ行ったかを問いただした。
あまりにもしつこいので、僕は話題を変えた。
「そうそう、新しいゲームソフトってどんなやつなの?」
桃色はゲーマーと言ってもいい。
「それがねぇ、すごいの。今月発売したばかりなのに、売り上げ数がもう百万を超えている。RPGなんだけど、それが今までのとは違うよ。一番の違いは説明書がなく、それに操作もとても難しいの。中には、師匠のような人物もいるけど、殆ど全部が、自分で模索しなければならない。それがかえって効を奏したわけよ」
「ふう~ん。そうなんだ」
「興味ないの?」
「いやいや、興味あるよ。とてもあるよ」
興味ないと言ったら、また昨日の事を問うに決まっている。
「そう。ってね、あのゲームの名前はね『戦士と魔法士』というの。一番すごいのは、ゲームの製造会社が真新しいコントローラーを開発したの!」
「それはすごいね!」
興味ありげに演技するのも、悪くない。
「戦士専用のコントローラーと魔法士専用のコントローラーの二つに分けているの。それでね、戦士のコントローラーはね、体の動きを操る部分と、技を操る部分に分かれているの。魔法士のはね、体の動きを操る部分と、魔法を操る文字盤に別れているの。ねぇねぇ、すごいと思わない!」
桃色は段々興奮してきた。
「面白そうだね」
「二人で遊べばもっと楽しいよ。一緒にやろうよ!」
その後も、桃色は絶え間なくゲームの話を僕に聞かせた。
ご飯を食べて教室に戻って急に思い出した。午後の最初の授業は体育だ。僕の一番嫌いな科目。
昼ご飯食べて、すぐ運動させるなんて、学校はどうやって時間割をしているんだろう。一人ぶつぶつ言ってもしかたない。それに、高三だから、体育の時間をなくしてもいいと思うのに。大人の考えにはついていけない。
授業が始まったと教えるチャイムと同時に、列を並べた。
体育の先生なら、筋肉質の男がよく思い浮かべるけど、うちの体育先生は、見た目はとても貧弱な男だ。風がふいたら、すぐ飛ばされるんじゃないかと心配するほどだ。
「ええと、今日は、来月に開催する県マラソン大会にむけて、練習をしようと思います。それでですね、今回の授業は走って走ってまた走ります。授業が終るまで、運動場を走りなさい!」
先生の話をきいて、不満の声を漏らした生徒は大多数だが、体育の先生は見た目と違って、とても頑固な男だ。自分の決めたことを決してめげようとしない。
僕ももちろん反対した。走るのがいやだから。そもそも、僕は体育系志望じゃないから。それに、もし走る途中につい足に埋め込まれた葉月の髪が力を発揮したら 、きっと異様な視線が僕の身体を刺すだろう。
僕は手を上げた。
「先生。気分悪いんですけど……保健室へ行っていいですか?」
「気分が悪い?どこが?」
「頭痛、眩暈、肩こり、筋肉痛などなど、いろいろです」
「冗談はしないでもらいたいね」
「冗談じゃありません、先生。本当です」
ここで、僕はわざとよろめいてみせた。
「分った。じゃ、あんたは次の授業に走ることになるとしよう」
(次の授業に走るの!抗議したいけど、やめておいた。次回の事は次回に悩むことにした。
保健室の常連である僕を見て、お爺さんは薄い微笑みを見せてから空きベットを指してくれた。
「ありがとうございます」
僕はベットの上で横になった。目を閉じると、葉月が見えた。
葉月の傷はどうなったのだろう。いろいろ考えていると、瞼が重くなってきた。僕は眠りに入った。
金曜日なので、学校へ行かなければいかない。昨日の事もあって、今日は体調不良ということで休めようと思っていたが、痛みなどはなく、いつもより爽快な気分さえした。胸を見ると葉月が刺した髪はもういなくなった。
ふと、公園で戦いが終わったことが頭の中をよぎった。
戦いが終わると、周囲が静寂に包まれた。葉月は目を閉じたまま動いていない。僕は彼女の頭をそっと僕の膝の上に置いた。僕の胸では彼女の髪がまた淡い光を放っている。このままでいると、傷口は塞がれて治るだろう。
夜風が生臭い血の匂いを運んできた。二人の犠牲者、無残さ骸。
ぼっと向こうの闇を見つめていると、葉月の呻く声が聞こえた。
「起きたの?体は大丈夫?」
葉月は体を起こしながら大丈夫と答えた。
「死体はどうすればいい?このままここに放置するの?」
「ほかに何かできる?」
正直に言ってできない。
葉月は公園の出口に向かって歩きだした。僕はすぐついて行った。
「気になったことがあるけど」
僕は遠慮がちに話した。
「何?」
「被害者の女性の彼氏たちはどこへ消えたのかな?もし、あの店員に殺されたなら死体はあるはずだよね。彼らの死体を探しだして警察の仕事を減らしてもいいじゃないか、と思って」
「彼らの死体はもうない」
「ない?どういうこと?」
葉月のぶっきらぼうな答えに、僕は少々びっくりした。
「もう、死体とは言えないこと」
葉月は前に進みながら話をつづけた。
「花が咲くために必要なのはなんだと思う?」
葉月の以外が言葉に一瞬、言葉が詰まったけど、すぐ答えた。
「光と水と、それから肥料かな。なんでそんなこと聞くの?」
「公園には光が十分にいる。水の血で十分だろう。じゃ、残りの肥料はどこから調達すると思う?
」
「わからない」
僕は頭を横に振った。
「肥料は彼女たちの彼氏」
「えっ!」
葉月の回答にあっけにとられた。彼氏が肥料だなって、いったいどういうことなんだろう。
「店員は彼女たちの彼氏を鋏でみじん切りにして土に埋めた。その場所に彼女を花として飾った。これが事実ってこと」
急に吐き気がしそうになったのを必死で我慢した。
「彼らの体はもうもとには戻れないんだね」
僕の問に葉月はうなずいただけだった。
それから僕たちは何も言わず黙々と家に向かった。夜も深かったので町には人が少なかった。夜に包まれた、僕たちの服を染まった血の跡もよくみれないので、助かった。血まみれの二人が歩くのはたちまち大騒ぎになる。
家について僕は葉月にシャワーを勧めた。
葉月はバスルームに入る前、振り返ってこう言った。
「明日は学校行きなさい」と。
葉月が言ったので逆らう気はなかった。理由を聞きたかったけど、シャワーを浴びて出てきた葉月は真っすぐ僕の部屋に入った。僕もさっさとシャワーを浴びてソファーで横になった。
軽く朝食を済ませてから、僕は家を出た。
教室に入り、自分の席についた。なんだか、学校も久しぶりの気がした。気のせいだけど。
葉月に会ってから、周りにいる人達はどんな黒魂を抱いているのかな?と考えるようになった。
授業は始まるとやはり退屈にしか感じない。自分の人生についてまじめに考えたことはなかったけど、つまらない今日をうまく過ごせたら、つまらない明日も過ごせる気がした。葉月に出会ってからはつまらなくはならないけど。
「昨日どこへ行ったの:?」
先生が入ってきたにも構わず、前の席に座る桃色は体をねじって話かけてきた。
「どこへ行ったの?返事してよ。昨日、電話したけど返事くれないし。心配で家に言ったけど誰も。せっかく新しいゲームソフトを買ったのに^」
ゲームオタクだ、桃色は。同じゲーム好きの僕とよく遊んだ。
「ちょっとね」
「だから、どこへ行ったのかを聞いているの?」
「少し用事があってね」
「どんな用事なの?」
「兄さんはいろいろな用事があるの。いつも遊び相手になってあげないよ」
「桃色と同じ年でしょう」
「しかし、僕は桃色より二ヶ月早く生まれたから、兄さんだよ」
桃色とひそひそと話していると、先生に注意された。僕はすぐ本を取り出し、読んでいるふりをした。
どうやって時間が過ぎたかはしらない。気付いたら、もう昼休みになっている。僕はもともとパンで昼ご飯をすまそうとしたけど、桃色がむりやり僕を食堂へ連れて行った。
食堂には生徒が少なかった。僕と桃色はご飯がのってあるトレーを持って、空いている席にすわった。坐るなり、桃色はまた僕が昨日どこへ行ったかを問いただした。
あまりにもしつこいので、僕は話題を変えた。
「そうそう、新しいゲームソフトってどんなやつなの?」
桃色はゲーマーと言ってもいい。
「それがねぇ、すごいの。今月発売したばかりなのに、売り上げ数がもう百万を超えている。RPGなんだけど、それが今までのとは違うよ。一番の違いは説明書がなく、それに操作もとても難しいの。中には、師匠のような人物もいるけど、殆ど全部が、自分で模索しなければならない。それがかえって効を奏したわけよ」
「ふう~ん。そうなんだ」
「興味ないの?」
「いやいや、興味あるよ。とてもあるよ」
興味ないと言ったら、また昨日の事を問うに決まっている。
「そう。ってね、あのゲームの名前はね『戦士と魔法士』というの。一番すごいのは、ゲームの製造会社が真新しいコントローラーを開発したの!」
「それはすごいね!」
興味ありげに演技するのも、悪くない。
「戦士専用のコントローラーと魔法士専用のコントローラーの二つに分けているの。それでね、戦士のコントローラーはね、体の動きを操る部分と、技を操る部分に分かれているの。魔法士のはね、体の動きを操る部分と、魔法を操る文字盤に別れているの。ねぇねぇ、すごいと思わない!」
桃色は段々興奮してきた。
「面白そうだね」
「二人で遊べばもっと楽しいよ。一緒にやろうよ!」
その後も、桃色は絶え間なくゲームの話を僕に聞かせた。
ご飯を食べて教室に戻って急に思い出した。午後の最初の授業は体育だ。僕の一番嫌いな科目。
昼ご飯食べて、すぐ運動させるなんて、学校はどうやって時間割をしているんだろう。一人ぶつぶつ言ってもしかたない。それに、高三だから、体育の時間をなくしてもいいと思うのに。大人の考えにはついていけない。
授業が始まったと教えるチャイムと同時に、列を並べた。
体育の先生なら、筋肉質の男がよく思い浮かべるけど、うちの体育先生は、見た目はとても貧弱な男だ。風がふいたら、すぐ飛ばされるんじゃないかと心配するほどだ。
「ええと、今日は、来月に開催する県マラソン大会にむけて、練習をしようと思います。それでですね、今回の授業は走って走ってまた走ります。授業が終るまで、運動場を走りなさい!」
先生の話をきいて、不満の声を漏らした生徒は大多数だが、体育の先生は見た目と違って、とても頑固な男だ。自分の決めたことを決してめげようとしない。
僕ももちろん反対した。走るのがいやだから。そもそも、僕は体育系志望じゃないから。それに、もし走る途中につい足に埋め込まれた葉月の髪が力を発揮したら 、きっと異様な視線が僕の身体を刺すだろう。
僕は手を上げた。
「先生。気分悪いんですけど……保健室へ行っていいですか?」
「気分が悪い?どこが?」
「頭痛、眩暈、肩こり、筋肉痛などなど、いろいろです」
「冗談はしないでもらいたいね」
「冗談じゃありません、先生。本当です」
ここで、僕はわざとよろめいてみせた。
「分った。じゃ、あんたは次の授業に走ることになるとしよう」
(次の授業に走るの!抗議したいけど、やめておいた。次回の事は次回に悩むことにした。
保健室の常連である僕を見て、お爺さんは薄い微笑みを見せてから空きベットを指してくれた。
「ありがとうございます」
僕はベットの上で横になった。目を閉じると、葉月が見えた。
葉月の傷はどうなったのだろう。いろいろ考えていると、瞼が重くなってきた。僕は眠りに入った。