店員の言われるままにあんな言葉を口にしたくはないけど、店員が葉月を人質にしている以上、従うしかないと思った。

「お、、お前は、花より、、綺麗だよ」

途切れ途切れに発した僕の言葉を聞いて、店員は気味悪い笑い声を上げた。

「それじゃ、あんたの言葉とおりに、彼女を花よりも綺麗に死なせてあげる!」

僕はあっけにとられてしまった。僕の存在は葉月の足手惑いところではなく、葉月をさらなら危険に陥れる存在になってしまったから。

葉月はもがいている。痛みにもがくか、それとも店員から逃げようともがいているかは分らない。しかし、僕はこれ以上、見ていられなくなった。

観客になりたくない。葉月と一緒に舞台で演技したい。それに、葉月の力になりたい。

店員が鋏を開けて葉月の首を目当てにしている瞬間、僕は走り出した。心の中で『早く、もっと早く!』と叫びんがら。

店員にぶつかった感触が全身に走った。力加減のできない全速力の体当たりに、僕と店員は遠くへ飛んで行った。公園に植えられた木にぶつかってようやく止まった僕と店員だった。

僕は地面から起き上がろうとしたら、店員が僕の目の前に立っていた。恐ろしいほど怖く変わった店員の顔。人がこんな表情ができるかどうか、疑問にさえ思った。

「あんたみたいな雑草は、先に刈ってしまうべきのようね」

いいながら、店員は僕の前で鋏を開いた。

恐怖に震えている僕を見て、楽しんでいる店員は急に頭を上げた。そして、鋏を振りかざし、空から飛び降りてくる髪の矢を切り始めた。

「逃げて!」

葉月の声がした。僕はすぐ這い上がり、近くにある木の下まで走って身を潜めた。空に浮かんでいる葉月を見た。切断された腕から、血が流れている。

店員は髪の矢を切りながら、葉月との距離を縮めた。

これ以上、空中に浮かべないらしく、葉月は地面に降りてきた。

店員は葉月を隠れさせないため、僕に向かって飛んできた。こんな突拍子な店員の行動に、僕はただ目を見張って立ち尽くすしかできなかった。恐怖に身体が動けなくなった。先までの勇気がもう完全に吹き飛ばされた。

葉月は店員を追いながら、髪を射たが、全部切られてしまった。葉月はもう一度髪を投げた。しかし、今度は店員にじゃなく、僕に向けてなげた。

葉月の髪は僕の手前の地面に刺し込み、僕の服を引っ掛けて空に向かって伸びた。でも、僕はすぐ自分が落ちるのを感じた。地面の方を見ると、店員はもう鋏で髪を切ってしまった。

支えるものがなく、落ちてくる僕を、葉月は空で受け止めてくれた。片手で僕の服の襟を掴んでいる葉月は大変そうだった。

僕を無事、地面に下して、店員に向き直った。

葉月が僕を持って、地面に降りてくるまで、店員は何の攻撃も仕掛けてこなかったので、どういうことだろうと思い、店員の方を見た。

店員の足は髪に刺され、地面に固定されたらしい。それに、もう二本の髪は鋏の柄の二つの穴の部分を貫通した。店員がどんなにもがいても足の髪から逃げる事はできなかった。武器の鋏は髪によって使えなくなった状態になった。

葉月はゆっくりと店員に向かって歩いていった。葉月の足音に気付いたらしく、店員ははっとし、叫び出した。

「来ないで!これ以上きたら、鋏であんたの身体を綺麗さっぱり刈り込んでしまうから!」

葉月はまず、切断された自分の右腕を拾って、腕にあてがった。そして、髪の抜いて傷口を縫合した。白い光が傷口を包んだ。傷の処理が終って、葉月はどんどん店員に近づいていった。

近寄ってくる葉月を見て、店員は一層激しくもがき始めた。せめて鋏だけを髪の束縛から逃させようと、必死に揺すぶった。

店員も危険を感じたらしく、狂ったように鋏を揺すぶった。

髪がしっかりと地面に差し込んだのを分った店員は、鋏の柄から左手を離し、髪を抜こうとした。

しかし、葉月は店員の思うがままにさせてくれなかった。すぐ髪を抜いて店員に向けて放った。髪の矢は店員の左腕を貫いた。

店員は苦しくもがきながら叫んでいる。

葉月はもう店員の目の前についた。

「鋏を手放す気はない?」

葉月の声には鷹揚がなかった。

「そんなつもりは微塵もない!」

震えながらも、店員はきっぱりと言い張った。

店員の左腕に刺さった髪はだんだん太くなって、結局、店員の左手を腕から離された。

左腕が鋏から離れた店員の身体は力なく、地面に崩れ落ちようとしたが、まだ右手がしっかりと、鋏のもう片方の柄を掴んでいた。

葉月はもう一度、髪を抜いた。

それを見た僕は葉月の傍まだ走りよった。

「店員を苦しめなくてもいいでしょう。悪いのは黒魂なんだから」

葉月は僕をじっと見つめてから話した。

「私は彼女が黒魂と融合したとふんだが、間違いだった。彼女は自分の意志で黒魂を支配し、利用した」

葉月の答えに僕はびっくりするほかなかった。黒魂は人の負の感情によって生まれたから、支配することができるのも、当たり前のことかもしれない。それでも、僕が理解できないのは、彼氏のいる女性だからといって、殺さくても……

店員は僕の目から疑惑を感じたらしく、鼻で笑った。そして、夜空の星を見ながら話した。

「誰も私の気持ちを知らない」

「だから、誰もお前の事を好きになれない」

葉月の言葉を聞いて、店員は怖い目線を送ってきた。葉月は気にしていないようだ。

「本当に鋏から手放さないつもり?」

葉月はもう一度聞いた。

「絶対手放さない!」

店員のきっぱりした答えは、さらなる苦痛を呼び寄せた。