「大丈夫。全身濡れるより全然マシ。もともと俺は濡れる覚悟だったけど、仁科さんは違うでしょ?」

「でも、」

「俺こそごめんね、仁科さんも少し濡れたよね」

「私は、」

「傘に入れてくれてありがとう。俺んち、ここ」


本当に、仁科さんが濡れるよりはずっとずっとマシだ。むしろ、あんな嘘を吐いてしまった俺は、濡れて当然だった。半身が濡れたぐらい、大したことでは無いと思う。

そして、俺の家が学校から近くて本当に良かったと心底思った。嘘は、やはり罪深い。


戸惑う仁科さんを玄関の中に引き入れて、俺は靴を適当に脱ぎ捨て、「待ってて」と言い残してタオルを取りに急いだ。

脱衣所に置いてある洗濯済みのタオルを引っ張りだし、ふと思いついて、キッチン横のパントリーへと足を踏み入れる。母が買い置きしているお菓子の入ったカゴを漁って、目当ての物をズボンのポケットへと忍ばせた。


玄関へと慌てて戻れば、仁科さんが少し困惑した表情で俺を待っていてくれた。

そんな表情すら可愛らしいと思ってしまう俺は、かなり彼女のことが好きらしい。もちろんある程度の自覚はしていたけれど……。


「俺と一緒だったから、濡れたでしょ? ごめんね、ありがとう」

「え、っと、そんなに、濡れてないから、大丈夫」