――仁科さんが、また雨の音を聞いている。
最近は俺も一緒にそれに耳を傾けて、今日の音はどんなイメージかを考えるようになった。
俺の印象と彼女の印象が同じ時もあるし、全然違う時もある。それがとても楽しい。
自分の中に無かった印象の言葉を告げられた時は、仁科さんの感受性の高さに改めて感服するし、同じ印象だった時は同じように感じることが出来たことに喜びを感じる。
単純な男だ、と自分でも思う。
「俺も、最近、雨の音が音楽に聞こえてきた」
「えっ、無理しなくていいよ、たぶん私がおかしいだけ、」
おかしいはずがない。だって今は俺にも、本当にそんな風に聞こえているから。もし彼女がおかしいのなら、俺だって相当おかしい。
「毎回違うよね、時間によっても違うし、場所によっても違うから」
「うん、私は楽しくて、好き」
「俺も。でも、雨音よりも、仁科さんの方が好きだけど」
「えっ、」
「あはは、顔、真っ赤」
口を尖らせて「もうっ」と怒るのが、とても可愛い。
俺が笑いながら「ごめん。だって本当のことだから」と返すと、また彼女の頬が赤く染まる。
――ずっと、ずっと、きみの瞳に映りたいと思っていた。
きみに見つめられるような存在に、なりたいと思っていた。
いま、顔を赤く染めた彼女の瞳に、嬉しそうに笑う俺の顔が映っている。それがとても、とても嬉しい。
これからも、ずっと、映れるように努力するよ。
きみの瞳に、――――。
~ Fin. ~
※ 仁科目線の『雨の音は、』は、野いちご or ベリカフェにてお読みいただけます。
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