ちょうど俺の家の前まで来ていたから、俺はまた昨日のように彼女を少し強引に玄関先へと招き入れた。


「待ってて」


そう言い残して、昨日と同じように脱衣所へタオルを取りに走る。

母秘蔵のお菓子のカゴから、今日は違う味の飴をひとつ取り出してポケットへと仕舞う。パッケージが紫色だったようだから、きっとブドウ味だろう。

俺は飴なんか滅多に食べないから、母がよく買って来るのを半分ぐらいしらけた目で見ていたけど、今日は、……いや、昨日も、か。とにかく母に感謝しようと思う。


また玄関へと引き返し、仁科さんがまだそこに存在してくれていることに、安堵する。


「昨日より雨が強かったから、濡れたでしょ?」


さっき傘を落としかけた時に、頭と肩が少し濡れてしまっていた。なるべく優しく拭いて、もう濡れているところがないことを確認すると、俺はポケットからブドウ味の飴を取り出した。


「はい、口開けて?」

「あ、の、」

「今日はブドウ味。キライ?」

「好、き」

「じゃあ、あ~ん」


破り捨てた飴のパッケージが床にヒラヒラと落ちるけれど、俺は気にもとめず、仁科さんの顔を覗き込んだ。

好き、と言う言葉が、俺のことだと思いたくなる、バカな自分がいる。

バカでもいい。彼女からその言葉が聞けるなら、いろんな彼女の好きなものを集めて差し出してしまいそうだ。それぐらい、彼女のことが好きだと思う。