ガシャン……ガシャン………
その身の全てを巨大な鎧に包み金属音を鳴らしながらその者は歩く。1000を超える大群を引き連れ闊歩する姿は、その者の持つ力の強大さを余すことなく誇示していた。暴力の象徴のようにリンリンも赤く染まった小手をゆっくりと振り下ろし、赤色の鎧を更に赤色に染め上げる。
ドンッ!!!
半径30メートルの火球が大地を焼きクレーターを生み出した。そこから先は………地獄だった。赤色の炎の剣と火球が無数に飛び交い空間を埋め尽くす。灼熱が空気を焼き、大地を滅し、この世界に破壊をもたらす。その者が扱うのは恐怖を讃えた力の象徴である火炎であった。
しかし豪華が生み出す破壊の嵐を駆け巡る2人の勇者の影があった。常に変化し続ける赤色の図形の隙間を黄色の軌跡と青色が軌跡を刻みながら、徐々に徐々に鎧の者へと距離を詰めていく。
ッパァアンン!!!
そして音速を軽々と超えその剣の切先を首元に………瞬間、半径5キロメートルを焼き尽くす巨大な炎柱が雲を突き抜け天をも焦がした!そして一瞬で距離をとったイリナに目掛けて鎧の者は炎を放った。イリナと炎が事前に空気を燃やし尽くした為に火球は空気抵抗なく高速でイリナに飛来する。イリナはまだ着地しておらず、その攻撃は避けようがない。着弾と着地が同時に起ころうとしたその刹那カイが間に入ってきた。そして…………
世界が赤く染まった。
「………………。」
目が覚めると自室だった。いつもと変わらない天井を眺めながら、大きく一回息を吐く。肺に流れこんでくる冷たい空気が頭の中を押し流して余分な思考を根こそぎ消してくれる。汗で濡れたシャツを脱いで洗濯カゴにぶん投げ一回大きく背伸びをした後、俺は居間へと向かった。
「お早いお目覚めですな。」
「いつも通りだろ。」
朝5時。普通の人間なら寝ているだろうが、俺達家族はなぜか全員起きている。両親は仕事の都合で昼夜が逆転しており起きているとは言えこの家にはおらず、弟妹はこの時間から練習をする為に起床をする。そして俺はどう頑張っても長時間寝れないショートスリーパーなのでこんな時間に起きてしまうのだ。一度の睡眠で3時間しか眠れないんだよね。連続で何回も寝れるけれど、それをすると気分が悪くなるからこの時間に起きて朝ご飯を食べることにしている。ストレスのせいだとも言うけれど………俺は昔っからやりたいことがあったら眠らずに何かをしてきたから、その習慣のせいだと思っている。そのせいで徹夜癖がついちゃったんだよなぁ。体が壊れてしまうってなければいいけれど。
「………また変なの見たのか?兄貴。」
弟の光輝が俺の肌を見ながら聞いてきた。…………汗はタオルで拭いてきたつもりだったが、テカリ具合でバレたなこれは。こいつらの観察眼は鋭くて敵わん。
「いつも通りの夢だよ。いつも通りのな。人ってのは夢を見るもんだ、どうしようもない幻想にしがみつく為にな。」
「詩人かよ。いつもの兄貴らしくもっと合理的に説明してくれ。」
「怖ーい夢だよ。魔王が正義の味方を殺しちゃうとてもとても怖い夢。」
赤くてゴタゴタした鎧を着た者………彼は炎帝、魔族のトップで3人の魔王のうちの1人だ。彼の操る炎は空間ごと万物を燃やし尽くしてまうほど強力だ。…………その力によって倒されたのがイリナのパートナーであるカイで、俺はそれを小説として書いたってわけ。んで昨日、イリナが現れたってわけ。どういうことこれ?
「あのなぁ………兄貴もいい加減高校2年生なんだからさぁ…………。」
「ああはいはい分かってます、分かってますよ。魔王も勇者も存在しませんよこの世界にはねぇ。俺だって分かってるよそれぐらい。」
昨日のことを思い出しながら、俺は首を横に振った。
「最近は見なくなってきてたのに………誰だよ兄貴を感化させたのは。困るよなぁ本当。」
「イリナだ。」
「…………マジ?」
俺は無言で首を縦に振ると、近くにあった参考書を開いて見始める。イリナは俺が書いている小説の主人公………そのイリナが昨日、俺に会いにきた。小説の世界が現実になったのだろうか?違う。その世界はこの世に実在していたのだ。そしてなぜか俺はイリナとカイの記憶を夢を介して覗いていて、それを小説として書いていた………らしい。まだ全てを完全に信じたわけではないけれど、昨日のイリナの口ぶりからすればそんな感じだろう。
「だ、大丈夫か?兄貴………その…………な?弟として心配しちまうぞ。」
「安心しろ。大丈夫だ。」
やっぱり君はカイと何かしらの接点があるみたいだね。昨日のイリナの言葉を思い出す。
「…………多分、大丈夫だ。」
俺は次のページをめくった。内容は全然頭に入っていなかった。
「…………狩虎、何かあったでしょ。」
朝の日課の勉強を終わらせた後、俺は登校して自分の席に座って本を読んでいた。まぁ、カバーをつけたマンガなのだけれど、良いじゃないかガリ勉がマンガを読んだって。
「いつも通りだよ、下らない夢を見たんだ。誰のためにもならない下らない夢を。」
俺の後ろの席の、幼馴染の遼鋭がニヤニヤしながら聞いてきたから、俺はいつも通りのトーンで返した。
「ふーーん?君がねぇ。………君の夢はとても壮大で、それでいて狂っているからねぇ。誰のためにもならないと言えば確かにそうなのかもしれない。」
遼鋭は身長180センチメートルのイケメンだ。大抵の物事はコツを簡単に掴めてしまうから苦戦することもなくできてしまい、それでいてメチャクチャ手先が器用だときている。俺と違って何もかもを生まれながらにして持っている天才っていう部類だ。
「でも今日の君はなんというかピリついている。これから先、起こるであろうことに身構えているというか…………とにかく、君の今の姿勢を日常と呼ぶにはいささか緊張感がありすぎるな。」
そしてこの洞察力だ。付き合いの長さとも相まって、遼鋭は俺の心を簡単に読んでくる。困ったものだ。プライバシーはないのか俺には。
「………秘密だけどさ、今日、うちのクラスに転入生が来るんだよ。それがメチャクチャ美人な女性だから、クラスの奴らが暴れないか心配なわけ。」
「あーーなるほど。しかし君も役得なポジションについたよね。こうやって事前に学校の情報を手に入れられるんだから。」
「宏美が譲ってくれたおかげさ。自力じゃあこんなべらぼうに良い場所、人生何回やり直したって座れやしない。」
「君らしいなぁ、まったく。それが良いところであり、悪いところでもあるんだけど。」
………昨日のイリナとの遭遇で確信していた。今日この学校に来る転入生と間違いなくイリナだ。俺の知っているイリナの情報だと同い年で、この学校にこれるだけの学力もある。それに彼女なら接触してくるはずなんだ、俺をカイと関わりのある人間だと思っているのなら………間違いなく、俺にとって今日は昨日に引き続き辛いものになるだろう。なんとかして乗り切るしかないな。
その身の全てを巨大な鎧に包み金属音を鳴らしながらその者は歩く。1000を超える大群を引き連れ闊歩する姿は、その者の持つ力の強大さを余すことなく誇示していた。暴力の象徴のようにリンリンも赤く染まった小手をゆっくりと振り下ろし、赤色の鎧を更に赤色に染め上げる。
ドンッ!!!
半径30メートルの火球が大地を焼きクレーターを生み出した。そこから先は………地獄だった。赤色の炎の剣と火球が無数に飛び交い空間を埋め尽くす。灼熱が空気を焼き、大地を滅し、この世界に破壊をもたらす。その者が扱うのは恐怖を讃えた力の象徴である火炎であった。
しかし豪華が生み出す破壊の嵐を駆け巡る2人の勇者の影があった。常に変化し続ける赤色の図形の隙間を黄色の軌跡と青色が軌跡を刻みながら、徐々に徐々に鎧の者へと距離を詰めていく。
ッパァアンン!!!
そして音速を軽々と超えその剣の切先を首元に………瞬間、半径5キロメートルを焼き尽くす巨大な炎柱が雲を突き抜け天をも焦がした!そして一瞬で距離をとったイリナに目掛けて鎧の者は炎を放った。イリナと炎が事前に空気を燃やし尽くした為に火球は空気抵抗なく高速でイリナに飛来する。イリナはまだ着地しておらず、その攻撃は避けようがない。着弾と着地が同時に起ころうとしたその刹那カイが間に入ってきた。そして…………
世界が赤く染まった。
「………………。」
目が覚めると自室だった。いつもと変わらない天井を眺めながら、大きく一回息を吐く。肺に流れこんでくる冷たい空気が頭の中を押し流して余分な思考を根こそぎ消してくれる。汗で濡れたシャツを脱いで洗濯カゴにぶん投げ一回大きく背伸びをした後、俺は居間へと向かった。
「お早いお目覚めですな。」
「いつも通りだろ。」
朝5時。普通の人間なら寝ているだろうが、俺達家族はなぜか全員起きている。両親は仕事の都合で昼夜が逆転しており起きているとは言えこの家にはおらず、弟妹はこの時間から練習をする為に起床をする。そして俺はどう頑張っても長時間寝れないショートスリーパーなのでこんな時間に起きてしまうのだ。一度の睡眠で3時間しか眠れないんだよね。連続で何回も寝れるけれど、それをすると気分が悪くなるからこの時間に起きて朝ご飯を食べることにしている。ストレスのせいだとも言うけれど………俺は昔っからやりたいことがあったら眠らずに何かをしてきたから、その習慣のせいだと思っている。そのせいで徹夜癖がついちゃったんだよなぁ。体が壊れてしまうってなければいいけれど。
「………また変なの見たのか?兄貴。」
弟の光輝が俺の肌を見ながら聞いてきた。…………汗はタオルで拭いてきたつもりだったが、テカリ具合でバレたなこれは。こいつらの観察眼は鋭くて敵わん。
「いつも通りの夢だよ。いつも通りのな。人ってのは夢を見るもんだ、どうしようもない幻想にしがみつく為にな。」
「詩人かよ。いつもの兄貴らしくもっと合理的に説明してくれ。」
「怖ーい夢だよ。魔王が正義の味方を殺しちゃうとてもとても怖い夢。」
赤くてゴタゴタした鎧を着た者………彼は炎帝、魔族のトップで3人の魔王のうちの1人だ。彼の操る炎は空間ごと万物を燃やし尽くしてまうほど強力だ。…………その力によって倒されたのがイリナのパートナーであるカイで、俺はそれを小説として書いたってわけ。んで昨日、イリナが現れたってわけ。どういうことこれ?
「あのなぁ………兄貴もいい加減高校2年生なんだからさぁ…………。」
「ああはいはい分かってます、分かってますよ。魔王も勇者も存在しませんよこの世界にはねぇ。俺だって分かってるよそれぐらい。」
昨日のことを思い出しながら、俺は首を横に振った。
「最近は見なくなってきてたのに………誰だよ兄貴を感化させたのは。困るよなぁ本当。」
「イリナだ。」
「…………マジ?」
俺は無言で首を縦に振ると、近くにあった参考書を開いて見始める。イリナは俺が書いている小説の主人公………そのイリナが昨日、俺に会いにきた。小説の世界が現実になったのだろうか?違う。その世界はこの世に実在していたのだ。そしてなぜか俺はイリナとカイの記憶を夢を介して覗いていて、それを小説として書いていた………らしい。まだ全てを完全に信じたわけではないけれど、昨日のイリナの口ぶりからすればそんな感じだろう。
「だ、大丈夫か?兄貴………その…………な?弟として心配しちまうぞ。」
「安心しろ。大丈夫だ。」
やっぱり君はカイと何かしらの接点があるみたいだね。昨日のイリナの言葉を思い出す。
「…………多分、大丈夫だ。」
俺は次のページをめくった。内容は全然頭に入っていなかった。
「…………狩虎、何かあったでしょ。」
朝の日課の勉強を終わらせた後、俺は登校して自分の席に座って本を読んでいた。まぁ、カバーをつけたマンガなのだけれど、良いじゃないかガリ勉がマンガを読んだって。
「いつも通りだよ、下らない夢を見たんだ。誰のためにもならない下らない夢を。」
俺の後ろの席の、幼馴染の遼鋭がニヤニヤしながら聞いてきたから、俺はいつも通りのトーンで返した。
「ふーーん?君がねぇ。………君の夢はとても壮大で、それでいて狂っているからねぇ。誰のためにもならないと言えば確かにそうなのかもしれない。」
遼鋭は身長180センチメートルのイケメンだ。大抵の物事はコツを簡単に掴めてしまうから苦戦することもなくできてしまい、それでいてメチャクチャ手先が器用だときている。俺と違って何もかもを生まれながらにして持っている天才っていう部類だ。
「でも今日の君はなんというかピリついている。これから先、起こるであろうことに身構えているというか…………とにかく、君の今の姿勢を日常と呼ぶにはいささか緊張感がありすぎるな。」
そしてこの洞察力だ。付き合いの長さとも相まって、遼鋭は俺の心を簡単に読んでくる。困ったものだ。プライバシーはないのか俺には。
「………秘密だけどさ、今日、うちのクラスに転入生が来るんだよ。それがメチャクチャ美人な女性だから、クラスの奴らが暴れないか心配なわけ。」
「あーーなるほど。しかし君も役得なポジションについたよね。こうやって事前に学校の情報を手に入れられるんだから。」
「宏美が譲ってくれたおかげさ。自力じゃあこんなべらぼうに良い場所、人生何回やり直したって座れやしない。」
「君らしいなぁ、まったく。それが良いところであり、悪いところでもあるんだけど。」
………昨日のイリナとの遭遇で確信していた。今日この学校に来る転入生と間違いなくイリナだ。俺の知っているイリナの情報だと同い年で、この学校にこれるだけの学力もある。それに彼女なら接触してくるはずなんだ、俺をカイと関わりのある人間だと思っているのなら………間違いなく、俺にとって今日は昨日に引き続き辛いものになるだろう。なんとかして乗り切るしかないな。