僕、タカユキが
國歯朶教授と会ったのは
失恋の痛手を癒そうと
1人旅に来た
ある島の宿だった、、


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『シトシトシトシトシ ト シ ト シ ト 』

夕方
雨が降る音がし始めた頃

島に着いた
タカユキが、
主に案内された部屋の引戸を
開けると、
説明されたとおり

相部屋の相手が
窓越しに空を見ている姿が
目に入った。

「相部屋なんですけど、よろしく
お願いします。失礼します。」

タカユキは、
おずおずとしつつ
畏まって部屋の中に入る。

畳敷きの和室。

左右の土壁際には、
文机と衣紋掛けが各々
置かれて、
あとは押し入れに布団がある
簡単な部屋。


食事は下の階にある
和室で食べて、
トイレも風呂も共同だと、
さっき主が
タカユキに説明している。

島の民宿は、
広い普通の民家を
シェアする
ごくごく簡単な作りの宿だった。

「よろしくね。これ、名刺。
大学で研究をしています。」

タカユキが
声を掛けて部屋に入ると、
それまで
窓の外を頻りに見ていた
男性が、
タカユキに顔を向けて、
笑顔で挨拶を
してきた。

「あ、僕学生で名刺とかなくて」

そんな言い訳をつらつら
しながら
気軽に渡された名刺を見て、

タカユキはギョッとする。

何故なら、
次の春に自分が入学する大学の
名前の下に

『総合人間学部・文化環境学
風土民族学教授 國歯朶一男』

と印字されているのだ。

どうやら、
学部さえ同じの教授だと
知ってタカユキは
身構えた。

「えっと、クニシダ、教授?で
読み方いいんですか。
あの僕、 春に入学するんです。
あ、お願いします。えと、、、」

タカユキが名刺に釘付けになり
ながら、相手に頭を下げるが、
存外
相手の教授は気安さを
崩すことなく

「へえ、じゃあ、大学で会うね。
改めて、よろしく。あれ、
じゃあ、この島に来たのは?」

年は、
50手前かそれぐらいだろう
國歯朶教授は、
興味深そうにタカユキを見る。
ただ、
タカユキはその國歯朶教授の
興味には応えられない
返事をする事に
居辛さを感じつつ

「あ、失恋の痛手を1人旅で
癒そうかと、思ってでして、」

情けない事情を正直者に
暴露した。

「そっか、そっか。まあ、こんな
辺鄙な島にくるから、てっきり
私の同類かと思ったが。ああ、
考えようによっては、君には
ぴったりな島かな。いやはや」

クダラナイ来島の理由だと、
恥ずかそうにするタカユキに
國歯朶教授は
意味深な言葉を投げ掛けて、
さっきまで眺めていた
窓を指差す。

「この島、別名『雨飲み島』と
言うんだよ。余り知られない
けどね。面白い事にね、あ、
君、オワフ島に行った事は?」

國歯朶教授は、
急に話を振られて
ドギマギするタカユキに
掛ける
真ん丸眼鏡を光らせて、
問うてくる。

「オワフ、ですか。あのハワイの
。海外行った事ないです。」

「そうか。オワフはね、1年で
殆ど毎日、雨が降るんだ。
ザーっと降ってカラッと晴れて
虹が沢山でるんだよ。だから、
雨に忌みじみた気持ちはなくて
恵みと祝福を見出だす。
そして、雨に沢山名前をつける
し、降る場所で雨の名前も違う
んだよ。何故かわかる?」

國歯朶教授は、
一気に畳掛けるように
タカユキに話をする。

外は
島に降りだした雨が
強くなりつつある。
タカユキも、雨の中
観光に出る気持ちもない。

それ以前に、
辺鄙な島に観光スポットが
あるとも思えない。

思いがけず
1人旅の話相手を得れた
タカユキは、
國歯朶教授の『雨』の話に
聞きいっていた。

「雨に名前をつけて、呪術を
使うからだよ。だから、その
土地の雨の名前は、秘匿中の
秘匿なんだ。実はね、この島も
その呪術を使う島なんだよ。」

雨で
嫁とり戦をするんだよ。

君、ラッキーだよ。

國歯朶教授は、タカユキに
真ん丸眼鏡を光らせて
口を弓なりにした。

タカユキは、
そんな初めて会った
國歯朶教授の台詞に
目を見張って驚いた。

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『シトシトシトシトシ ト シ ト シ ト 』


タカユキの耳に
酷く雨が耳障りに響きわたる。