「今日から夏が始まるそうですよ。じめじめの梅雨もおしまい。ですから豆を変えてみました」
「ほう。それは楽しみだ」
「甘みのある豆をセレクトした、爽やかな夏ブレンドです。どうぞ」

 淹れたての夏ブレンド第一号をカウンターの上にことりと置く。老紳士は添えたミルクを注いでから一口飲んで、美味しいと微笑んだ。

 それからは、お庭のサルスベリが咲き始めたとか、こんなご時世のなかで開催されるオリンピックの是非についてなどを、いつもの穏やかな口調で話されていたが、急に、ところでと少し改まった声になった。