立ち上がった老紳士が優雅にお辞儀をした。わたしも慌てて頭を下げる。

「さて、さっそく妻に謝らねば。また来ます。今日のお礼はその時に」
「えっ!お礼なんていりません」
「いやいや。それでは僕の気がすまない」
「いえいえ。本当にいりません。こうしてここでコーヒーを楽しんでいただけるだけで十分です」

 老紳士はそうですかと残念そうな表情になった。

 緑色のジャガーが夏の眩しい陽光が降り注ぐ坂道を下ってゆくのを、お店の窓越しに見送る。きっと奥様は機嫌を直すはずだ。良かった良かった。

 カップを片付けていたら、カランという音。今日、二人目のお客様だ。

「いらっしゃいませ!」


〜Fin〜