褒められても手放しで喜べない。反省すべき点もある。

「わたしからお客様へ、夏ブレンドはミルクは合わないと申し上げるべきでした」
「うむ。しかし」
「しかしそんな差し出がましいことを言うのもどうかと。それに」
「それに?」
「お客様は当店の常連様です。ですからどこかで甘えていたのかもしれません」

 いらっしゃるお客様の嗜好はさまざま。わたしはプロなのだからその嗜好を考えるべきだった。老紳士にそう言ったところ「僕はそうは思わないな」と微笑んだ。

「客の嗜好に寄り添うことも、無論、大切だと思う。しかし店の味、個性、そこでしか味わえないもの。それが一番大切なのではないかな」
「・・・ええ。そうですね」
「僕は貴女が淹れてくれるコーヒーが美味しいからこうして通っている。とはいえ、出されたコーヒーすべてに味見もせずにミルクを入れてしまう習慣は改めるべきであると、貴女から教えてもらった。この歳で目から鱗が落ちた気分ですよ。ありがとう」
「そんな・・・恐縮です。わたしこそありがとうございます」