「でも、気持ちはわかるわ。グレイス、一度に色々なことが起こったものね」
 ふと、マリーの目が優しくなる。グレイスの目を覗き込んできた。グレイスの喉が、くっと鳴った。優しいのだ、マリーは。こうして気遣うようなことを言ってくれる。
「……言い訳にはならないかもしれないけれど」
 じゅうぶん反省したので、グレイスはそう前置きした。
「婚約とか、その発表とか、あとは婚約の儀、とか」
 ひとつずつ挙げていく。全部、グレイスの心を沈めていったことだ。楽しいことであったはずがない。そんなことが立て続けに起きれば。グレイスの気持ちを、マリーは肯定してくれた。
「それは息が詰まるわね」
 そう言われて、もう一度喉が鳴りそうな気持ちになって、でも自分が悪かったと言おうとしたのだけど、その前にマリーが言った。
「私も同じような気持ちになったことがあるわ」
 それは初めて聞くことだったのでグレイスは驚いた。顔をあげてマリーの目を見る。
 グレイスに見つめられて、マリーはちょっと困ったように笑った。
「私も結婚に至るまでには色々あったもの。楽しいばかりじゃなかったわ」
 そう、マリーは既に嫁いでいるのだ。同じ貴族の息子へと。それも比較的最近のこと。マリーが十六になってしばらくしてからのことなので、約二年である。
 たった、二年前。マリーも『色々あった』のだ。