父が顔をあげる。グレイスの目を見つめた。
 恐ろしく冷たい色で、怒りの乗っている父の目。
 グレイスに優しいとはいえ、家のことと秤にかけたら家のことを迷いなく取る父の性質がそのまま表れていた。
「なにを言うか」
 その目で睨みつけられる。グレイスはその視線に凍らされそうになりつつも、お腹に力を込めて踏みとどまる。
「私は……ダージル様のことを想えないのです。このまま嫁ぐなど、……っ!!」
 バンッ!! と、唐突に大きな音が立った。グレイスは言葉を切ってびくりと震えてしまう。
 目の前で、父が立ち上がっていた。今の音は、着いていた机に思い切り手をついたからのもの。
「なにをつまらないことを。想えるか想えないかなど。そんな気持ちは不要だ」
 グレイスの言葉を真正面から切り捨てるような言葉だった。
「私はお前に恋の相手を宛がいたいのではない。アフレイド家の存続のために婿が要る。ほかならぬお前に、だ。そこに気持ちなどは関係ない」
 グレイスの心をひとつずつ刺し貫いていくような言葉だった。グレイスの心がずたずたになってしまいそうなほど、鋭い言葉。
「だからできないなどという言葉は聞き入れられん。……戻れ」
 話は終わりだ、部屋に帰れという意味であったのだが、グレイスはぼうっとしてしまっていて、立ちつくしたままになっていた。
 とろっと、心臓から血が流れだしたような錯覚すら覚える。
 遅れてずきずきと痛んできた。
 胸が潰れそうに痛くて、思わずグレイスはワンピースの胸元を握りしめていた。
「帰れと言っている」
 もう一度睨みつけられて、グレイスは、ふらっと一歩後ずさった。足元がおぼつかなくて倒れてしまいそうだと思う。
 けれど駄目だ、そう、部屋に、帰らなければ。