竜也(たつや)ー。最近どうしてたんだ?付き合い悪くなってたじゃん。」
「色々知らない事実が増えて、暇が無くなってさ……。」
「なんだそれ。」
「そのうち、機会があれば言うよ……。」
「教えてくれないのかよ、けちー。」
「説明が複雑なんだよ……。」

今日は、卒業式。学校を卒業することになる。
俺の場合は、人間の世界も卒業し、今日からドラゴンの世界へ行く。
友達には説明が大変なので、今の所は海外に就職が決まったことにした。
急にファンタジーな話をしても信じてもらえないのは分かってたから。
俺だって言われたら信じられる気がしない。

卒業証書ももらい、卒業式も終わった。
家に帰ると両親と桜夜(さや)さんが迎えてくれた。

「竜也ちゃん、おつかれさま~。」
「竜也さん、おつかれさまです。」
「竜也、おつかれさま。友達への説明は済んだのか?」
「あぁ。とりあえず海外就職したってことにしたよ、(すぐる)さん。」
「わかった、じゃあその形で口裏合わせておくな。」

卓さんに頭を軽く撫でられた。撫でられたのは、いつぶりだろう。
ちょっと、こそばゆい感じもしたが、悪い気分ではなかった。

「母さん、桜夜(さや)さん。卒業式は終わったけどさ。
 どうやってドラゴンの世界にこれから行くの?」
「竜也ちゃん、慌てなくても大丈夫よ~。ほら。」

玄関のインターフォンが鳴ったので出てみると、
そこには見覚えのない和服姿の男性が2人立っていた。

秋奈(あきな)様のご子息、竜也様でよろしいか?」
「あ、はい。そうです。」
「本日より成人の儀を執り行うため、ご同行いただきたく存じます。」

後ろを振り向くと、両親と桜夜さんが玄関まで来ていた。

「竜也ちゃん。これからが正念場よ~。頑張ってきてね。」
「竜也、がんばってこいよ。無理はしないようにな。」
「竜也さん、いってらっしゃいませ。
 練習の成果を発揮できますよう、ご武運をお祈りします。」
「……行ってきます。」

3人に見送られながら、俺は家を後にした。

和服姿の2人に連れられながら、暫く歩くと近所の神社にたどり着いた。

「……ここは地元の神社ですけど。どこまで行くんですか?」
「この神社の西側にしめ縄のついた石があるの、覚えてますか?」
「そういえば、ありますね。」
「あの石のところまで行きましょう。」

石の前まで行くと、二人は石の西側と東側に分かれ、何やら唱え始めた。

「ここに、新たな竜巣(トライブ)の一員と成る者、
 竜也が成人を迎えた。竜巣の掟により、成人の儀を執り行う。
 この者を(ドラゴン)の世界へと導きたまえ。」

唱え終わるのと同時に石が光り始め、石の目の前に光が溢れてくる。
しばらくすると、石より大きい両開きの扉が現れた。
扉は、ひとりでに開き、中から光が溢れる。向こう側は見えない。

「さ、竜也様。この先からが、成人の儀の始まりです。」
「こちらをお持ちください。」

差し出された、手のひらサイズの水晶を受け取ると、それは手の中に沈んでいき、手のひらに竜をモチーフにしたような印が現れた。

「これによって、成人の儀が達成されたかどうかが分かります。
 成人の儀の最中に何かが起きた場合も、こちらで分かるようになっています。」

……あぁ、そうか。成人の儀とは言え、そういう可能性もあるのか。
これから行くのはVR(バーチャルリアリティ)でもない。本当にある世界。

「とは言え、竜也様はドラゴン。
 人間の姿の時に死亡した際は、ドラゴンの姿に戻ると同時に別の場所へ飛ばされ、
 安全な場所で眠り、回復します。回復が終わるまで起きれません。
 逆にドラゴンの姿の時に死亡した際は、魂だけの存在になった後、暫くした後に、
 肉体が再構成されます。こちらも再構成が終わるまで目覚めません。
 魂すら滅された場合は、本当に死にます。
 代わりに別のドラゴンが何処かに生まれますが、竜也さんという存在は消えます。」
「どちらにしろ痛みはあるんだろ?」
「それは当たり前です。復活出来るだけです。」
「魂すら滅されるなんてのは、よほどの悪さをして、勇者にでも狙われなければありませんよ。」
「勇者ってのは居るんだ。」
「居ますね。時代や状況によりけりですが。ほぼ見かけることはないでしょう。」

ちょっと気が重くなった。勇者には狙われたくないな。

「では、竜也様。行ってらっしゃいませ。無事に成人の儀を終えられますよう。」
「うん。行ってくる。」

こうして俺の成人の儀、ドラゴンの世界への一歩が始まったのだった。