いつもの光景、いい加減見飽きた日常。
暇を持て余しながら、ゲーム端末で遊んでいた。
「何か面白いことでもねーかなぁ。面白いゲームも最近ないし。」
そんな事をアプリで友達にメッセージを送っていた。
「竜也、ちょっといいか?」
声をかけてきたのは、僕の父さんの卓さん。
「卓さん、急にどうかしたの?」
「大事な話があるんだ、ちょっと居間に来て欲しい。」
言われるままに居間に行くと、珍しく母さんもスーツを着て座っている。
僕が座ると、少し沈黙した後、父さんが喋りだす。
「まずは、どこから話そうか。」
二人とも真面目な顔をしているから、逆に不安になる。
「おまえは、“ドラゴン“って知ってるか?」
「あぁ、うん。空想上の竜でしょ。蛇とか爬虫類みたいな。」
「そう、それ。……聞き方を変えよう。“ドラゴン”って、居ると思うか?」
「居ないから、空想上の動物なんじゃない?」
「それがな、居るんだよ。空想でも、何でもなく。」
「そうなのよ。あなたの目の前に、ね。お父さんは人間。お母さんがドラゴン。
あなたは人間とドラゴンのハーフなの。」
「え、ちょっとまって。冗談でしょ?」
様子を見た父がため息をつく。
「まぁ、そうなるよな。それだけなら、別に大したことでもないんだ。」
「いや、ちょっと待ってよ。大したことでしょ!」
「ちょっとドラゴンが人間と結婚してて、人間生活に溶け込んでるだけだから。」
「そもそも、母さんは本当にドラゴンなの?」
「そうよ~。ドラゴンの姿じゃないから信じられない?
元の姿になってもいいけど、家が壊れちゃうから河川敷にでも行かないと~。
あ、でも河川敷だと人目についちゃうのが問題ね。
体育館とか貸切にすべきかしら~?それって幾らなのかしら。
きっと高いわよねぇ......。」
「母さん、話が進まないよ。」
「あら、ごめんなさい。」
二人の話からすると、実は僕はハーフのドラゴンだったらしい。
「人間生活で自立が始められる年齢……つまり18歳になると、
ドラゴンとしての自立試験みたいなのがあるんだ。
『成人の儀』って言うんだけどな。」
「あ、もちろん母さんも受けたわよ。古い仕来りだから、
いい加減廃止したらって老爺様に言ってるのだけど、
辞める気ないみたいなのよね。」
「その試験をな、おまえも受けなきゃいけないんだ。
今日は、その成人の儀の話だ。」
成人の儀、自立試験。『ドラゴンとして一人前』に、なること。
それには幾つもの試練を乗り越えないといけないらしい。
「成人の儀の話もそうだが、おまえにまだ説明してないことがある。」
そういって僕の首元のネックレスを指差す。
このネックレスは生まれたときからずっと身につけてるもの。
僕が何を言おうと、身に着けたままにさせられていたのを思い出した。
綺麗な緑色の宝石のネックレス。
「そのネックレスな、おまえのドラゴンとしての姿を封印するためのものなんだ。」
「そうだったの!?」
「生まれたばかりでネックレスが無かった頃、
竜也ちゃん大変だったものね~。
ドラゴンになったり人間になったりしてたんだから。
慌てて老爺様が用意してくれたのよ。
病院もドラゴン側のにしてたから騒ぎにはならなかったんだけどね~。」
「竜也は完全に人間として生活しているし、
今となっては逆にドラゴンになれないんじゃないか?」
確かにネックレスを外してもドラゴンになった事はない。
そもそもどうやってドラゴンになるんだろう。
「竜也ちゃんのために、事前講習って訳じゃないけれど、
先生は用意してあるからね~。ちょっと変わってるかもしれないけど。
桜夜ちゃん、来てくれる~?」
天井に向かって母さんが声をかけると、母さんの側にスーツを着た女性が現れた。
「はい、秋奈様。如何しましたか?」
「竜也ちゃんの竜化と人化の練習に付き合ってあげて欲しいの~。
1週間後が卒業式だから、それまでに。」
「了解いたしました。」
「え、母さん。この話と卒業式が関係あるの?」
「ん~と、そうね。人間としての卒業式の後、
竜也ちゃんは、ドラゴンとしての卒業式を目指して貰いま~す。
……つまり成人の儀が終わったら、ほんとの卒業式になるの~。」
「母さん、そこだけ言っても分からないと思うよ。
ようはな、人間としての卒業式が終わった後、
強制的に成人の儀の準備が始まるんだ。拒否権もなし。
儀式だから、父さんも母さんもサポートができない。
急にドラゴンの生活をイチからしなきゃならん。
秋奈さんがサポートしてくれるとは言え、相当大変だろうと思う。」
「秋奈さんがサポートするのは良いの?」
「それは問題ない。だが、最初しかサポートしてはいけないらしい。
一通りの説明が終わった後は、自分の力のみでどうにかするしかない。」
……前途多難な気がしてきた。
「とりあえず、桜夜さん……でしたっけ?」
「はい、竜也さん。これから1週間、宜しくお願いしますね。」
「よろしくです。桜夜さんは、母さんとどういう知り合いなんですか?」
桜夜さんはチラッと母さんを見ると、母さんがうなずいていた。
「まず、竜也さんのお立場から説明しますね。
先程までの話の流れで薄々気づいてるかもしれませんが、
竜也さんは秋奈様のご子息なので、老爺様の孫になります。
そして老爺様は、竜巣の長老です。」
「そうなんですね……。」
「続けますね。竜巣は、1つではありません。
幾つもあり、それぞれで掟を定めています。内容は様々ですが、
基本的に同じ部分も存在しており、成人の儀の内容は共通になっています。
簡単に言えば『一人で生活できるか』というのが主な目的になります。
他にもありますが、そちらは成人の儀とは直接関係ない話なので割愛しますね。」
「独り立ちの儀式なんですね。」
「そうです。ドラゴンの姿で、独り立ち出来るかが試されます。
開始から3年後までに、成人の儀をクリアしないといけません。
大抵の方は2年以内にクリアしていますので、竜也さんもそれを目指してください。」
……ため息しか出ない。急にドラゴンになって、1週間で独り立ちの試練。
何も知らないのに、2年以内に生活出来るようになれって無茶な気がする。
「竜也ちゃん、そんなに厳しくは無いから、大丈夫よ~。
お母さんだって、ちゃんとクリアしてるんだから。
それに老爺様だって、可愛い孫なんだし無茶させないと思うわよ~。」
「そうだったら良いんだけど……。僕は爺ちゃん?に会った事ないよ?」
「そりゃあ、お母さんが会わせないようにしてたし。
老爺様は直ぐに自分の家に連れて行こうとするから、避けてたの~。
ドラゴンの事は、大人になるまで言わないつもりだったから~。」
「どうして?」
「人間の世界に慣れてるのに、急にドラゴンの世界へ行っても困るでしょ?
それに、行かなくて済むならそれでもいいかなって~。
大人になってから、竜也ちゃんに決めて貰うつもりだったの~。」
いつもの母さんの調子に困る。
母さんは本当に何も無ければ行かせないつもりだったんだな……。
「母さんは、ドラゴンの世界に嫌な思い出でもあるの?」
「特に無いかな。あ、でも求愛されるのは面倒だったかも~。
お父さんみたいな素敵な人が居なかったからね~。」
そんな事を言いながら、父さんに抱きつく母さん。照れる父さん。
「じゃ、竜也ちゃん。明日から1週間修行よ、頑張ってね~。」
「やってみるよ……。」
僕の『ドラゴン』としての生活が始まったのだった。
暇を持て余しながら、ゲーム端末で遊んでいた。
「何か面白いことでもねーかなぁ。面白いゲームも最近ないし。」
そんな事をアプリで友達にメッセージを送っていた。
「竜也、ちょっといいか?」
声をかけてきたのは、僕の父さんの卓さん。
「卓さん、急にどうかしたの?」
「大事な話があるんだ、ちょっと居間に来て欲しい。」
言われるままに居間に行くと、珍しく母さんもスーツを着て座っている。
僕が座ると、少し沈黙した後、父さんが喋りだす。
「まずは、どこから話そうか。」
二人とも真面目な顔をしているから、逆に不安になる。
「おまえは、“ドラゴン“って知ってるか?」
「あぁ、うん。空想上の竜でしょ。蛇とか爬虫類みたいな。」
「そう、それ。……聞き方を変えよう。“ドラゴン”って、居ると思うか?」
「居ないから、空想上の動物なんじゃない?」
「それがな、居るんだよ。空想でも、何でもなく。」
「そうなのよ。あなたの目の前に、ね。お父さんは人間。お母さんがドラゴン。
あなたは人間とドラゴンのハーフなの。」
「え、ちょっとまって。冗談でしょ?」
様子を見た父がため息をつく。
「まぁ、そうなるよな。それだけなら、別に大したことでもないんだ。」
「いや、ちょっと待ってよ。大したことでしょ!」
「ちょっとドラゴンが人間と結婚してて、人間生活に溶け込んでるだけだから。」
「そもそも、母さんは本当にドラゴンなの?」
「そうよ~。ドラゴンの姿じゃないから信じられない?
元の姿になってもいいけど、家が壊れちゃうから河川敷にでも行かないと~。
あ、でも河川敷だと人目についちゃうのが問題ね。
体育館とか貸切にすべきかしら~?それって幾らなのかしら。
きっと高いわよねぇ......。」
「母さん、話が進まないよ。」
「あら、ごめんなさい。」
二人の話からすると、実は僕はハーフのドラゴンだったらしい。
「人間生活で自立が始められる年齢……つまり18歳になると、
ドラゴンとしての自立試験みたいなのがあるんだ。
『成人の儀』って言うんだけどな。」
「あ、もちろん母さんも受けたわよ。古い仕来りだから、
いい加減廃止したらって老爺様に言ってるのだけど、
辞める気ないみたいなのよね。」
「その試験をな、おまえも受けなきゃいけないんだ。
今日は、その成人の儀の話だ。」
成人の儀、自立試験。『ドラゴンとして一人前』に、なること。
それには幾つもの試練を乗り越えないといけないらしい。
「成人の儀の話もそうだが、おまえにまだ説明してないことがある。」
そういって僕の首元のネックレスを指差す。
このネックレスは生まれたときからずっと身につけてるもの。
僕が何を言おうと、身に着けたままにさせられていたのを思い出した。
綺麗な緑色の宝石のネックレス。
「そのネックレスな、おまえのドラゴンとしての姿を封印するためのものなんだ。」
「そうだったの!?」
「生まれたばかりでネックレスが無かった頃、
竜也ちゃん大変だったものね~。
ドラゴンになったり人間になったりしてたんだから。
慌てて老爺様が用意してくれたのよ。
病院もドラゴン側のにしてたから騒ぎにはならなかったんだけどね~。」
「竜也は完全に人間として生活しているし、
今となっては逆にドラゴンになれないんじゃないか?」
確かにネックレスを外してもドラゴンになった事はない。
そもそもどうやってドラゴンになるんだろう。
「竜也ちゃんのために、事前講習って訳じゃないけれど、
先生は用意してあるからね~。ちょっと変わってるかもしれないけど。
桜夜ちゃん、来てくれる~?」
天井に向かって母さんが声をかけると、母さんの側にスーツを着た女性が現れた。
「はい、秋奈様。如何しましたか?」
「竜也ちゃんの竜化と人化の練習に付き合ってあげて欲しいの~。
1週間後が卒業式だから、それまでに。」
「了解いたしました。」
「え、母さん。この話と卒業式が関係あるの?」
「ん~と、そうね。人間としての卒業式の後、
竜也ちゃんは、ドラゴンとしての卒業式を目指して貰いま~す。
……つまり成人の儀が終わったら、ほんとの卒業式になるの~。」
「母さん、そこだけ言っても分からないと思うよ。
ようはな、人間としての卒業式が終わった後、
強制的に成人の儀の準備が始まるんだ。拒否権もなし。
儀式だから、父さんも母さんもサポートができない。
急にドラゴンの生活をイチからしなきゃならん。
秋奈さんがサポートしてくれるとは言え、相当大変だろうと思う。」
「秋奈さんがサポートするのは良いの?」
「それは問題ない。だが、最初しかサポートしてはいけないらしい。
一通りの説明が終わった後は、自分の力のみでどうにかするしかない。」
……前途多難な気がしてきた。
「とりあえず、桜夜さん……でしたっけ?」
「はい、竜也さん。これから1週間、宜しくお願いしますね。」
「よろしくです。桜夜さんは、母さんとどういう知り合いなんですか?」
桜夜さんはチラッと母さんを見ると、母さんがうなずいていた。
「まず、竜也さんのお立場から説明しますね。
先程までの話の流れで薄々気づいてるかもしれませんが、
竜也さんは秋奈様のご子息なので、老爺様の孫になります。
そして老爺様は、竜巣の長老です。」
「そうなんですね……。」
「続けますね。竜巣は、1つではありません。
幾つもあり、それぞれで掟を定めています。内容は様々ですが、
基本的に同じ部分も存在しており、成人の儀の内容は共通になっています。
簡単に言えば『一人で生活できるか』というのが主な目的になります。
他にもありますが、そちらは成人の儀とは直接関係ない話なので割愛しますね。」
「独り立ちの儀式なんですね。」
「そうです。ドラゴンの姿で、独り立ち出来るかが試されます。
開始から3年後までに、成人の儀をクリアしないといけません。
大抵の方は2年以内にクリアしていますので、竜也さんもそれを目指してください。」
……ため息しか出ない。急にドラゴンになって、1週間で独り立ちの試練。
何も知らないのに、2年以内に生活出来るようになれって無茶な気がする。
「竜也ちゃん、そんなに厳しくは無いから、大丈夫よ~。
お母さんだって、ちゃんとクリアしてるんだから。
それに老爺様だって、可愛い孫なんだし無茶させないと思うわよ~。」
「そうだったら良いんだけど……。僕は爺ちゃん?に会った事ないよ?」
「そりゃあ、お母さんが会わせないようにしてたし。
老爺様は直ぐに自分の家に連れて行こうとするから、避けてたの~。
ドラゴンの事は、大人になるまで言わないつもりだったから~。」
「どうして?」
「人間の世界に慣れてるのに、急にドラゴンの世界へ行っても困るでしょ?
それに、行かなくて済むならそれでもいいかなって~。
大人になってから、竜也ちゃんに決めて貰うつもりだったの~。」
いつもの母さんの調子に困る。
母さんは本当に何も無ければ行かせないつもりだったんだな……。
「母さんは、ドラゴンの世界に嫌な思い出でもあるの?」
「特に無いかな。あ、でも求愛されるのは面倒だったかも~。
お父さんみたいな素敵な人が居なかったからね~。」
そんな事を言いながら、父さんに抱きつく母さん。照れる父さん。
「じゃ、竜也ちゃん。明日から1週間修行よ、頑張ってね~。」
「やってみるよ……。」
僕の『ドラゴン』としての生活が始まったのだった。