風が心地いい。
 良い天気で、海も凪。


 その少女は岩場の海岸で釣りをしていた。
 頭の上で三角の耳がピクピクと動き、しっぽがユラと揺れた。
 辺りにあった適当な流木に、近くに生えていた丈夫そうな蔦を巻き、同じく流れ着いていたタコを先に縛って、海中へ垂らす。
 穏やかな時間が流れていた。


 やっぱりその辺に落ちていた穴の開いた麦わら帽子を被って、陽射しを避けながらのんびりとする。
 漂流して3日目。


 そろそろ理解した。
 見える範囲に陸はない。


 海!海!海!海!
 四面楚歌である。


 きっと淡水ばかりを飲んで生きてきたせいだろう。
 だから海水に囲まれるような事態に陥ったのだ。
 ひどい!なんてことだ!


 ……暇すぎて被害妄想すら捗る。


 とはいうものの、この島の生活にも慣れつつあった。
 脳内で暴言を吐きながらも、静かな時間に身を置き続ける。  


 ―――竿が引かれた。
 くいっと持ち上げる。


 蔦に縛られて迷惑そうな顔をしたタコが30センチくらいの青い魚を捕まえていた。


 名前は判らないが、昨日も食べた魚だ。
 焼いただけでも美味しかったし、いま無事だから毒もないだろう。
 タコを海に返し、魚を持って焚火まで戻る。


 適当な枝を拾って串にし、魚を火へ寄せた。
 次第に良い匂いが漂い始める。


 「お腹が鳴るにゃー」


 じっくりと焼きながら、夢落ちだったら良かったのになあ、と心から思う。
 夢落ちの事を大嫌いだと思っていたものの、いま思えばあれは平和な終わり方だったにゃあ。


 彼女はそのまま100年に至る生涯の残りを、無人島から脱出することなく終えるのだった。