アレックスが、父親であるヒュージの罪を告白して、追放して……
 そして、ランベルト家がなくなり、一週間が経った。

「よう、アリーシャじゃないか。どうしたんだ?」

 アレックスの様子を見るために街の教会へ行くと、元気そうな笑顔に迎えられた。
 実家がなくなったとは思えないくらい明るい顔をしている。

「アレックスの様子が気になったのですが……」
「なんだ、俺の心配をしてくれたのか?」
「当たり前です。まさか、父親を追放するだけではなくて、家を潰してしまうなんて」

 あの日……

 ヒュージは罪を犯したため、当主にふさわしくない。
 しかし、ランベルト家に目を向けることなく、逃げてきた自分もまた、当主にふさわしくない。

 アレックスは、最後にそういう方向に話をまとめた。
 そして、そのままランベルト家を潰してしまった。

 貴族に戻れるはずだったのに、その機会を自分で潰して……
 そして、今まで通り、教会を家とすることに。

 アレックスの人生はアレックスのものだ。
 彼がそう決めたのだから、それに対して文句をつけるつもりはないし、不満をぶつけるつもりもない。

 ただ……

「事前に相談していただけなかったのは、怒っているのですよ?」
「あー……悪い。確かに、相談はすべきだったな」
「なぜ、あんなことを?」
「いやさ。みんなにあれこれしてもらっておいてなんだけど、俺、貴族に戻りたいわけじゃないんだよ」
「そうなのですか?」

 驚いて……
 でも、ほどなくして納得した。

 そういえば、アレックスはその出自のせいで貴族を快く思っていない。
 その貴族になれると言われても、乗り気にはならないだろう。

「あのクソオヤジの言いなりにはなりたくなかった、それだけなんだよな」
「なるほど」
「貴族なんて、始めからどうでもよかったんだ」

 アレックスらしいといえば、とてもらしい。

「でも、家を取り潰したのはやりすぎでは?」

 ヒュージの子供はアレックスだけ。
 他にランベルト家を継ぐ者はいない。

 だとしても、家を潰さなくてもよかったのではないか、と思う。
 ランベルト家の当主が腐っていたとしても、それでも、色々な役割があったはずだ。
 それがなくなると、多少なりとも混乱が起きる。

 それに、ランベルト家に仕えていた人も行き場を失ってしまう。

「多少はな。でも、あんな家に頼らない方がマシだろ。色々と腐りきっていたからな。無理に再生しようとしないで、一度、潰した方が早いさ。下手に残しておくと、どこかのバカが適当な後継者を連れ出して、また騒動が起きるかもしれないからな」
「そう言われると……」
「ランベルト家に雇われていた人達も、半分以上が腐っていたからな。クソオヤジと一緒で、甘い汁をすすることしか考えてない連中がほとんどだ。そんな連中を気にすることはないさ」
「そうだったのですか……」
「あんな家、なくなった方が世の中のためってわけだ」

 アレックスは晴れやかな顔でそう言った。

 その顔は、とてもさわやかで、清々しくて……
 不思議な魅力があり、ついつい見惚れてしまう。

「どうしたんだ、アリーシャ?」
「アレックスに見惚れていました」
「そっか、みほれ……はっ!?」

 アレックスが慌てた。
 それはもう、おもしろいくらいに慌てた。

「おまっ、なにを……!?」
「今のアレックスは、とてもかっこいいと思いました」
「ふ、ふざけんな! か、からかっているのか!?」
「そんなことはしませんよ。本心ですよ?」
「んなっ……?!」

 アレックスは顔を赤くして、口をパクパクと開け閉めした。

 どうして、そんなに慌てているのだろう?
 彼ほどの美形なら、こういう台詞は女性から言われ慣れていると思うのだけど。

 しばらくの間、アレックスは慌てて、うろたえて……
 ややあって、落ち着きを取り戻した。

「はぁあああああ……」

 そして、なぜか深いため息。
 とても疲れているようだけど、どうしたのだろう?

「素知らぬ顔をして人の心をかき乱すというか、ちょくちょく天然で大胆な行動をとるし……そうだよな。アリーシャは、そういうヤツだったよな」
「むう?」

 なにやら、悪口を言われているような気がする。
 考えすぎだろうか?

「まあ、気にするな。俺の問題だ」
「なら、気にしないことにします」
「割り切りがいいな、おい」
「本当は気になりますが、アレックスは絶対に話さないぞ、という目をしていますので」
「……正解だ。なんでわかるんだよ?」
「アレックスのことなら、なんでもわかりますよ」

 友達なので。

「また、お前はそういう……まあ、今のも別の意味なんだろうけどさ……」
「?」

 なぜか、再びアレックスは顔を赤くしていた。

「まあ……」

 気持ちを切り替えるように、アレックスは咳払いをした。
 それから、笑顔をこちらに向けてくる。

「なにはともあれ、今回の件は助かったよ。本当にありがとう」
「どういたしまして」

 これにて一件落着……かな?