ネコが男?
 それは、どういうこと?

「え?」

 どういうこと?

 完全に予想外のことを告げられて、私は思考が停止してしまうほど混乱してしまう。

 ネコが男なんて、そんなわけが……
 いやでも、この状況でそんな冗談を言うわけがない。

 それに、ゲームでは、ネコは二つの秘密を抱えていた。
 暗殺者ともう一つ。
 もう一つは知らなかったのだけど……
 実は男で、隠し攻略ヒーローでした、というのなら納得だ。

 でも、まさかネコが男なんて……

「それは、本当なのですか?」
「あはは、信じられないよね」
「ネコの言うことだから信じたいのですが……しかし、どこからどう見ても女性にしか見えないので……」
「そういう風に教育されてきたからね。女装して相手を油断させて、あるいはそういう場所に潜入して任務を果たす……っていう暗殺者なんだ、私は」
「むう」

 じっと見る。
 じーーーっと見る。

 でもやっぱり、男には見えない。
 とてもかわいい美少女だ。

「その髪は地毛ですか?」
「そうだよ。基本的に伸ばしているから」
「肌も綺麗ですね……」
「男でも綺麗な人はいるからね。きちんとケアをすれば、こうなるよ」
「……正直、信じられません。なにか証拠はないのですか?」
「証拠、と言われても……」

 ネコは困った顔になり……
 次いで、頬を染める。

 ネコが男性である証拠。
 それは……

「……」

 私も顔を熱くしてしまう。
 なにを考えたか、それは秘密だ。

「えっと……はい、わかりました。変に疑うことはやめにします」
「ありがとう、信じてくれて」
「ですが、どうして私にその秘密を? トラブルに発展する可能性もありますし、隠しておいた方がいいと思うのですが」
「そうなんだけどね。でも、これ以上、友達に隠し事はしたくなかったから」

 その言葉からは、ネコの誠意が伝わってくる。
 うん。
 ネコが男性であろうと女性であろうと、関係ない。
 私にとって、ネコは大事な友達だ。

「ひとまず、私の家に来ていただけますか? 私が持つ力は大したものはなく……父さまと母さまに相談しないといけません。安心してください。二人共、きっと力になってくれますから」
「うん……ありがとう、アリーシャ」

 アリーシャは優しく笑う。

 よかった。
 これでネコを助けることが……あれ?

 でも、よくよく考えると、メインヒロインであるフィーのイベントを奪ってしまったことになるのだろうか、これ?
 だとしたら、フィーが困ることに……

 いや、大丈夫。
 フィーが困るというのなら、全身全霊で私が力になる。守る。

 それに……
 ネコを放っておくことはできない。

「では……」

 一緒に家に帰りましょう。

 そう言いかけた時、ゾワリと冷たい感覚が背中を走る。
 その嫌な気配の矛先は……ネコだ。

「ネコっ!!!」
「え?」

 おもいきり地面を蹴り、キョトンとするネコを地面に押し倒した。
 それと同時に、背中に灼けるような感覚が。

「ぐぅ……!?」
「アリーシャ!?」

 ネコが悲鳴をあげる。
 それもそのはず。
 私の肩に短剣が突き刺さっていた。

 もちろん、ネコがやったものじゃない。
 これは……

「……外したか」

 どこからともなく黒尽くめの男性が現れた。
 その手には短剣を握りしめている。
 サイズが小さいところを見ると、投擲用なのだろう。

「アリーシャ、大丈夫!?」
「なんとか……」

 ウソだ。
 本当は泣きたいほどに痛い。

 でも、今は私のことはどうでもいい。

 この展開は知らないのだけど……
 でも、前世で触れたゲームや漫画のパターンからしたら、これは……

「口封じ、ですか?」
「ほう、よくわかったな」

 黒尽くめの男性が感心したように言う。

 やっぱりか。
 黒尽くめの男性は、ネコが所属しているという裏組織の者。
 ネコが組織に従うかどうか怪しんでいて、見張っていたのだろう。
 そして、裏切りを宣言したために粛清しようとした。

 そんな状況を理解したネコは、顔を青くする。

「そんな……私は、ずっと組織のためにがんばってきたのに……」
「その組織を捨てようとした罰だ」
「そ、それは……でも、こんなにも簡単に……」
「ネコ」

 ショックを受けるネコの手を握る。
 それから、痛みを我慢して笑いかける。

「あのような組織に裏切られたからといって、ショックを受ける必要はありませんよ。だって、もう関係ないのですから」
「……アリーシャ……」
「むしろ、ざまあみろ、と笑ってやりましょう」
「……あはは」

 ネコは笑い、

「うん、そうだね。本当にその通りだ。私は、ネコ。ネコ・ニルヴァレン。組織のおもちゃじゃない!」

 強く言い放ってみせた。