『もしもーし。社長〜聞いてましたか〜?』


 裕一郎の自室に、縁人(よりひと)の声が小さく響いた。

 何もない空間へ向けて悪戯(いたずら)(ただよ)わせていた目線を移動させた裕一郎は、パソコン画面のむこう側で頬杖をつく縁人に「すみません」と呟き長いまつ毛をわずかに伏せる。


「少し……考え事をしていました」
『考え事? 社長が仕事中にぼーっとするなんて珍しいっすね。俺でよければお悩み相談くらい聞きますよ』


 縁人の返答を聞いて、裕一郎は顎に片手を置き何か考えるような素振りを見せたが、少しの間を置いてゆっくりと唇を持ち上げた。