スマートフォンは自分用の部屋に置いたままでテレビもつけていないため、今が何時なのか・あとどれぐらいで裕一郎が帰宅するのかわからない。
 重い首を持ち上げて床の間の壁に飾られた時計へ目をやった時、音もなく(ふすま)が開き恋幸は間抜けな声を上げて飛び起きた。


「……驚かせてすみません。一応、襖を開く前に声はかけたのですが」
「はっ、あっ、こちらこそすみません! おかえりなさい!」
「ええ、ただいま」
(はわ……このやりとり、新婚夫婦みたい……)


 と、彼女の頭の中にお花畑が出来上がったのもほんの数秒で、すぐに“しなしな”と音が付きそうな動きで表情が(かげ)り俯いてしまう。