「別れよう」
「もう、これ以上一緒にいても、気持ちは変わらないと思う」

 その言葉を告げられた私は、頭が真っ白になった。目の前にいる彼のことは今でもたまらなく愛しいのに、彼にとっての私は、どうやらそうではなくなってしまったらしい。

 私にとっての一番は彼だ。この先、変わることはない。

 嫌だ、別れたくない、なんて、そんなことを言えなかった。彼にとって面倒な存在にはなりたくなかったから。
 彼のことだ。私のことなんてすぐに忘れてしまう。きっと私は毎日彼のことを思い出して、泣いてしまうのに。

 そう思った時、ふと、あるフレーズを思い出した。

"別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。"

 私の本棚にある、川端康成の小説の中の、ある一節。

「ねぇ」

 最後に彼に、一つ、呪いをかける。
 この世で最も美しい呪い。

 これで君は、私のことを1年に1度は、思い出してくれるでしょう?



End.