「クドリャフカ!」

 唐突に隣の彼女は、手を挙げてそう言った。

「うわ、何」

 驚いて思わず彼女の方を見る。

「クイズの答えだよー。ほら、あってた!」

 ポッキーを咥えたまま子どものようにはしゃぐ彼女の指差した先には、「正解はクドリャフカです!」という司会者の声と共に、“クドリャフカ”と表示されたテレビ画面。

「すごいよねぇ、初めて宇宙に出た犬だよ!」

 窓から入ってきた夏風が、彼女の髪を遊ぶように揺らした。炭酸の抜けたソーダが、甘ったるい。

*

 あの日の夏より、少しだけ涼しい気がしている。いつも半分以上君に持っていかれていたポッキーは独り占めだ。君のマシンガントークがないお陰で、ソーダの炭酸が抜ける前に飲み干せる。
 
 ねぇ、あの日君は、クドリャフカはすごいと目を輝かせて言っていたけれど、あの犬は人間のエゴイズムの犠牲になったんじゃないのか。
 君は、あのいじめられっ子を庇ったわけだけど、あの子は君のことなんか忘れて楽しげにしているじゃないか。

 夏風が肌を撫でる。あぁ、去年より少し涼しい気がするのは、隣に君がいないからか。



End.