「死にたい」

 僕がそう呟くと、彼女はちらりと僕を見た。
 そして、

「なんでそう思ったの」

 そう、彼女は言った。

「なんでって、辛いから」
「何が辛いの?」
「……ひとりぼっちが、辛い」
「そっかぁ」

 彼女はうんうんと頷く。

「でも、私がいるじゃん」
「そうだね」
「それじゃ、だめなの」
「ううん、だめじゃないよ」

 少し不満げな彼女にそう言うと、「じゃあ、死ななくてもいいじゃん」と彼女は言う。

 死にたい気持ちに、嘘はなかった。でも、彼女に死ななくてもいいじゃんと言われれば、確かにそうで。

 僕はこれまでも何度も「死にたい」と彼女に対して溢していた。そうすれば、彼女はじっと僕の目を見て、その理由を尋ねてくる。そして、僕が並べた死ぬべき理由を否定してくれる。それを聞いて、僕はまた少し、生きてみる。

 ただ、それは彼女に言われたことが響いたからではない。彼女が僕の自殺を止めたという、その事実だけで生きている。

 だから、もし彼女が「じゃあ死ねばいいじゃん」とでも言おうものなら、僕は本当に死ぬだろう。

 彼女はきっと、僕の生死を自らが握っているとは思っていないだろう。僕の命は、彼女の言葉ひとつでどうとでもなるのだ。それがおかしくて、生きることに面白さを見い出させる。

 僕はいつまで生きるんだろう。それは僕には知る由もない。

 すべては、彼女の手の中に。



End.