同性の親友を好きになった。

 その好きは、友人としての好きとは違う、恋愛的な意味での、"好き"だった。

 友人は誰にでも優しく、素直で嘘がつけない子だ。そして、私のことを特別だと言ってくれる。

「渚は私の一番大切な友達だよ」

 その一番は、きっと本当なのだろう。友人というカテゴリの中で、彼女は私を一番に置いてくれている。でも、私が彼女を置くのは、友人というカテゴリではない。

 それでもいいと思っていた。叶わぬ恋であることは、分かっていた。彼女への恋心を自覚したその瞬間から。

「ねぇ、優依」

 そのはずだったのに。それなのに、私は。

「もし私がさ、女の子を好きなんだって言ったら、どう思う?」

 放課後の帰り道、彼女にそう聞いてしまった。

「いいと思うよ。渚の恋、私は応援する!」

 屈託のない笑顔で返されたその返事は、私に希望を抱かせた。

「……その相手が、優依だって、言ったら?」

 恐る恐る、そう尋ねる。怖くて、表情は見られなかった
 しばらくの沈黙。そして。

「……ごめん」

 その彼女の声以外、全ての音が世界から消えてしまったかのように感じた。

「渚のこと、好き、だけど……それは、友達としての、好き、なの」

 彼女の声は震えていて、私よりも彼女が泣いてしまうんじゃないかと思った。

「ううん、気にしないで。分かってた。ごめんね、突然」

 彼女はふるふると首を横に振る。

「……困らせてごめん、また明日ね!」

 精一杯の笑顔でそう言って、彼女に背を向けて帰った。ちゃんと分かっていた。分かったうえで彼女に伝えてしまったのだ。一瞬の思い違いで。だから、悲しさはあれどどこか私は冷静だった。


*


 辛かったのは、彼女に振られたことではなかった。

「……おはよう!」

 翌日、笑顔を作って、彼女に声をかける。

 彼女は、振り返って私の顔を見ると、戸惑ったような表情をした。そして、困ったように微笑みながら、「おはよう」と返す。

 彼女は優しくて、嘘がつけない子だ。だからこそ、痛かった。
 確実に感じる彼女と私の間にできてしまった距離。それを悟られまいとする彼女の下手な笑顔。
 そして何より、そんな彼女の不器用さをこの期に及んで尚、可愛い、愛しいと思ってしまう自分の未だ消し去れない恋心が、痛かった。



End.