どうやって帰って来たのか思い出せない。いつの間にか俺は、ひよに体を支えられていた。というか、今、何時だ。もういないと思ってたのに。彼女の姿が目に入ると、俺は酷く安心していた。視界が霞んでいて、どこを歩いているかも分からない。結局バランスを崩して、俺はひよと共に床に倒れ込んでしまった。困ったような彼女の表情。困らせてごめんね、と思った。それだけじゃなかった。巻き込んでごめん、利用してごめん。その上、都合よく縋りついて、ごめん。

「ねぇ、ひよ」

 発された声は、我ながら甘ったるかった。

「ひよは、俺の、こと」

 そこまで言って、口を噤む。この続きは、言えなかった。言おうとすると、どうしようもなく泣きたくなった。駄目だ、ひよを困らせている。子どものように、縋りついてはいけない。

 咄嗟に大人の振りをした。顔を赤らめる彼女のことを、可愛いと思った。このまま、好きだって言ったら、彼女はどういう表情をするのだろうか。
 俺は、気づいていたのだ。彼女が俺に向ける感情に。俺が彼女に向けるその感情とは少し異なる。彼女くらいの年齢であれば決して珍しくない感情。