「なんで今更って。兄貴がいなくなったからってなんだよって、思ったけど。……それでもやっぱ、俺嬉しくて」

 泣き出しそうな声。それでも、弟は涙を堪えていた。それが痛々しくて、でも、慰めるべきは俺ではなかった。

「……それから、ずっと勉強頑張ってきた。いい高校に入れるように、高校に入れたら、次はいい大学に入れるようにって。母さんが俺を見てくれるならって思って、ずっと、ずっと」

 俺がいなくなってから、弟は母からの重圧を一身に受けてきていたのだ。自分のことでいっぱいいっぱいになっていた俺は、弟の存在を気にかけることもなく、生活していた。

「……でも、俺はやっぱ出来の悪い兄貴の弟でしかなかったんだ」

 堪えていた涙が、弟の頬を伝った。

「結局俺、大学に落ちてさ。周りからはやっぱり兄貴の方がって言われて。母さんにも、失望された。暁なら、暁だったら、暁がいればって、何度も、何度も、そんな台詞吐かれて」

 途切れ途切れに紡がれる言葉は、苦しくて。

「もう、疲れた」

 絞りだされた悲痛な声が、痛かった。