弟の部屋は、机の上以外は綺麗に片付いていた。机の上は参考書等が乱雑に積み上げられていた。

「久しぶりだな」

 そう声をかけても、弟は何も返さない。

「元気にしてたか」

 こちらが目を合わせても、弟はこちらをちらりとも見ない。椅子に座って俯いたまま。俺はどうすればいいのか分からず、立ったまま。

「……何しに来たんだよ」

 しばらく沈黙が続き、それを破ったのは弟だった。

「……久々に、会いに来たんだよ」
「母さんに言われて?」

 弟は全てを分かっているようだった。ここで否定しても何の意味も為さないだろうと思い、頷いた。

「母さんに何言われたの?言うこと聞かなくなったって?」
「いや……まぁ、ちょっと不安定になってる、って」
「そう。それで、兄貴に助けを求めたんだ。誰のせいかも考えずに」

 弟の声は、怒りを含んでいた。何に怒っているのか。何が弟を不安定にさせているのか。俺は、それが読み取れず、どう声をかけていいのか分からないまま、何も言えずにいた。