久しぶりの実家は、息苦しさを感じた。少し顔に皺が増えた母に出迎えられ、足を踏み入れる。一人暮らししている今の部屋の方が面積は狭いはずだが、こっちの方が狭く、そして何となく暗く感じた。
 部屋から出てこないのだと、母は言った。声をかけても怒鳴り散らされてしまうのだと。縋るような母の目に、あの頃を思い出して少し気分が悪くなった。

 トントンと、ノックをする。返事は帰ってこない。

「凛」

 弟の名を呼ぶ。そう呼ぶと、「お兄ちゃん」と子どもらしい無邪気な笑みを向けてきたのが思い出された。

 ガチャリ、と音がして、少しだけ扉が開く。

「……兄貴」

 久々に聞いた声は、記憶の中より数段低かった。長い前髪からちらちらと見える、睨むような鋭い瞳。

「……何しに来たんだよ」

 少なくとも、歓迎はされていない。敵意のような、猜疑のような。そんなものが向けられている。

「話を、したくて」

 俺がそう言うと、弟は少し考えるような素振りを見せ、「入れば」と一言言ってきた。

「うん、ありがとう」

 陰で母が不安げにこちらを覗いているのを感じつつ、俺は部屋に足を踏み入れた。