これまでの活動のおかげでしばらくお金で困ることはなかった。そのため、外出も必要最低限でよかった。部屋に一人閉じこもり、無意味に時間を浪費していく。何かをする気は起きなかった。俺に視線を向けることのなくなった母から時たま送られてくる生存確認のメールにも、ろくに返事を送らなかった。

 そんな日々を数年送り続け、金銭面も心許なくなってきた頃、俺はアルバイトを始めた。その程度には時間が精神面を回復させてくれた。自分を、ただの、どこにいる何者でもない自分に戻すことができたと思った。あの、神と呼ばれていた日々が全て夢だったのではないかと思うほど、遠かった。忘れてしまえるんじゃないかとすら思えた。コンビニでのアルバイトをこなし、コンビニ弁当を持って帰る、その繰り返しが、俺にとっては気楽で、これでいいと思っていた。

『暁、お願い、帰って来て』

 そんな一言から始まる、母のメールが届くまでは。最初のその一文を呼んだ時、いつも通り無視しようと思っていた。家を出て5年の歳月が経っていた。もう、放っておいてほしい。そう思っていたのだが、その内容は弟についてだったのだ。
 食事をろくにとらず、部屋に閉じこもりがちになった。さらに、暴言を吐いたり暴力を振るうようになった。そのようなことが書かれていた。正直、想像できなかった。バニラアイスが好きだった弟。母に怒鳴られ、怯えて泣いていた弟。出て行く父に泣きついていた弟。思い出されるその姿はどれも、無邪気で臆病な、小さな弟。

 会いに行こうと思った。弟の好きなバニラアイスを買って、話に行こうと。