そんな思いと共に、6年を過ごした。音楽の世界で俺の名前を知らない人はいないとまで言われるくらいに、俺は名の知られた作詞作曲家となった。その月日と共に、信者と呼ばれる人々も増えていった。どこか現実味がなく、ふわふわとした感覚があった。俺が俺でないような、そんな、不安定さを感じていた。

「あなたの音楽がなきゃ生きていけない」
「千明暁は天才だ」
「千明暁が作った音楽以外価値はない」
「あなたは神だ」

 人々を狂わせているような、もしくは自分が狂っていくような。はたまた、その両方か。様々なものに凭れかかられているような感覚だった。重くて、息苦しくて、何かに縋りたかった。でも結局、縋れるものなんてなくて。

 結局俺は、高校卒業を機に引退した。あらゆるものから逃げたかった。自由が欲しかった。その一心だった。母は俺が引退したいと言うと酷く反対していたが、無理矢理押し切る形で進めた。一人暮らしを決め、広くはないが一人で住むには十分な古いアパートに引っ越した。ようやく、呼吸がしやすくなる。普通の人間として、一般人として、生活できる。そう思っていたのだが。

 俺の引退は瞬く間にマスメディアによって広まっていき、ニュース等で大々的に取り上げられた。嘆き悲しむ人々が映し出される。それを、それほど気にも留めていなかったのだが。

『千明暁のファンがによる迷惑行為』
『千明暁のファンが自殺』

 そんなニュースが連日報道されるようになった。
 俺の引退を受け入れられないファンによる、所属していたレコード会社への脅迫文。千明暁はメディアに殺されたのだと訴える暴動。自らの縋っていた神様がいなくなってしまったという遺書を残した自殺。

 気にしない、なんてことはできなかった。これほどまでに、"千明暁"は、誰かの中に生きていて、そして、誰かを殺してしまうほどの力を持っていたのだ。それに、無理矢理に気づかされた。引退しても彼らの信仰心は止むことなく、寧ろ見えない存在となった神に幻想を抱き、より信仰心を深めていく。俺の知らないところで、"千明暁"の存在は人々の中に根付き、陶酔させていく。それからしばらく、俺は引きこもる生活を送っていた。