「ねぇ、暁。その曲、暁が作ったの?」
弟を寝かしつけるときに歌っていた子守唄をたまたま聞いていた母に、ある日突然そう問われた。
「うん」
確かにそれはその通りだった。弟が落ち着くようにと、なんとなく作ったメロディと歌詞。肯定の返事を聞いた母は、俺の元にしゃがみこみ、目線を合わせた。
「もっと色々な歌、作れる?お母さんにも聴かせてほしいな」
久々に聴いた、穏やかで優しい母の声。それが、嬉しかったのをよく覚えている。
その日から俺は曲作りに没頭した。母が喜んでくれるのを見たい一心で。今思えば、それなりに健気な子どもだった。歌を作っては母に得意げに披露し、その度に母は褒めてくれた。
「暁すごいね」
その笑顔を、今でも一点の曇りもなく覚えている自分に、嫌になる。その純粋な笑顔を向けてくれたのも、ほんの一瞬のことだったというのに。
「暁、ほら、挨拶して」
突然連れていかれた知らない場所。目の前の知らない人に挨拶をするように促される。そして、「暁、歌って」とこれまで何度も言われた言葉をかけられた。台詞は同じでも、その目はあの純粋さを失っていた。
弟を寝かしつけるときに歌っていた子守唄をたまたま聞いていた母に、ある日突然そう問われた。
「うん」
確かにそれはその通りだった。弟が落ち着くようにと、なんとなく作ったメロディと歌詞。肯定の返事を聞いた母は、俺の元にしゃがみこみ、目線を合わせた。
「もっと色々な歌、作れる?お母さんにも聴かせてほしいな」
久々に聴いた、穏やかで優しい母の声。それが、嬉しかったのをよく覚えている。
その日から俺は曲作りに没頭した。母が喜んでくれるのを見たい一心で。今思えば、それなりに健気な子どもだった。歌を作っては母に得意げに披露し、その度に母は褒めてくれた。
「暁すごいね」
その笑顔を、今でも一点の曇りもなく覚えている自分に、嫌になる。その純粋な笑顔を向けてくれたのも、ほんの一瞬のことだったというのに。
「暁、ほら、挨拶して」
突然連れていかれた知らない場所。目の前の知らない人に挨拶をするように促される。そして、「暁、歌って」とこれまで何度も言われた言葉をかけられた。台詞は同じでも、その目はあの純粋さを失っていた。