気づいて、呆然とするしかなかった。彼に向ける信仰心が自分の中にあったことへの恐ろしさで動けなくなる。そして、彼を深く傷つけたことに対して、どうすればいいのかも分からなかった。
 その時、スマートフォンの通知音が鳴った。緩慢な動作で画面を見る。それは"BLUE PILL"の新曲が投稿されたことを告げていた。そのタイトルは、"END"。

 それを見た途端、焦りが募った。全てが、終わってしまう気がした。
 スマートフォンを取り出して、連絡先をタップ。彼の名前を見つけて、通話ボタンを押した。
 ワンコール、ツーコール。出てくれないかもしれない。もう、私に失望してしまったかもしれない。闇に包まれていくような感覚。視界が歪む。

「はい」

 その声が聞こえた瞬間に、無意識に大きく息を吸った。

「アキ、今、どこにいるの」

 声が震える。泣きそうになった。泣くわけにはいかなかった。
 そして伝えられたのは、ここから十分ほどの場所にある、古いビル。

「お願い、待ってて」

 それだけ言って電話を切る。弾かれるように彼の家を飛び出して、無我夢中で走る。さっきも走っていたから足も肺も痛い。けれど、速度を止めることはない。走っている間、様々なことを考えた。彼にしてしまったこと、彼に伝えるべきこと。何を一番に伝えればいいんだろう。一番は、何よりも、彼への謝罪。許してくれないかもしれない。それでも、まずは、彼に。

 その思いを胸にようやく着いた、築何十年の古いビル。人の気配が感じられないような外観。ここに、彼はいる。薄暗い建物の中に入り、汚れたコンクリートの階段を上る。何階まで登ったのか分からない。息切れしながら、顔を上げる。

 そこに、彼はいた。俯いていて表情は見えない。階段に腰掛けている。間違いなく、アキだ。息が整わないままに、揺れる声で、彼の名前に声を乗せる。

「アキ」