人々の孤独を、彼は音楽によって請け負っていた。自分自身は闇に沈んだまま、他者を救う音楽を作り続ける。それならば、彼の孤独は誰が癒してくれたのだろう。
 佐山さんは言っていた。誰も彼の孤独を奪ってはいけないと。それに対して、私は確かにおかしいと思っていたはずだった。私は彼女らとは違う。信者とは違うと。それならば、彼を孤独から救うのは、私の役目だったんじゃないのか。なぜそれをしなかったのか。なぜ、あの時、私は彼の告白を、受け入れなかったのか。確かに好きだったはずなのに、なぜ他の女性の影が見えても、傷つかなかったのか。なぜ、自分はアキに見合わないと思ったのか。
 これまで、気づけなかった全てが、繋がったような気がした。その一言で、全て納得できた。

「私も、彼の信者だったから」

 口にしたと同時に、涙が零れた。彼の書く歌詞は、こんなにも寂しいと、怖いと、助けてほしいと、そう叫んでいたのに。

『これからも、俺の信者になんかならないでね』

 遠い記憶の彼の言葉が蘇る。あの日、彼はどんな気持ちで言っていたんだろう。どんな表情で、伝えてくれたんだろう。彼は、どこまでも孤独だった。そして、私は彼の手を離してしまったのだ。

 結局私は、彼を崇拝してしまっていた。彼と時間を共にするうちに。……いや、違う。あの、初めて会った時のあの瞳に見つめられたときから。何者でもない私を、"ひよ"にしてくれた彼に。生きる意味をくれた彼に、私は。