彼の部屋の中は、やはりもぬけの殻だった。物はリビング同様明らかに減っている。そして目に入ったのは、普段は床に散らばっていたり無造作に積まれていたりするはずの、今は丁寧に積み上げられている楽譜だった。
薄暗い部屋の中、ゆっくりとそれに近づく。一番上の楽譜に、彼の字で書かれている言葉を読んだ。
『俺の曲は全部ひよにあげる』
その一言が、彼の声となって頭の中に巡る。高く積み上げられた楽譜。それを一枚ずつ、読んでいった。彼はいつも言っていた。『いつも通り、適当に』と。私はその通りに、歌詞の意味を理解しないまま。それを彼が望んでいたから。自分で考えることは放棄していた。そうするべきだと思っていたから。
『彼はね、闇の中に手を引いていってくれるの。ひとりじゃないって。ただ、孤独だけを奪ってくれるような、そんな音楽なの。ひとりぼっちの恐怖から、救ってくれるの』
佐山さんが言っていた言葉を思い出す。あの日私は、それを聞いて逃げ出したいと思った。その異常さから。彼女のような、彼の信者と呼ばれる存在に恐怖し、怯えた。
けれど、彼女は私よりも彼のことを分かっていた。少なくとも、理解しようとしていた。彼女の言う通りならば、彼は闇の中にいたのだ。
薄暗い部屋の中、ゆっくりとそれに近づく。一番上の楽譜に、彼の字で書かれている言葉を読んだ。
『俺の曲は全部ひよにあげる』
その一言が、彼の声となって頭の中に巡る。高く積み上げられた楽譜。それを一枚ずつ、読んでいった。彼はいつも言っていた。『いつも通り、適当に』と。私はその通りに、歌詞の意味を理解しないまま。それを彼が望んでいたから。自分で考えることは放棄していた。そうするべきだと思っていたから。
『彼はね、闇の中に手を引いていってくれるの。ひとりじゃないって。ただ、孤独だけを奪ってくれるような、そんな音楽なの。ひとりぼっちの恐怖から、救ってくれるの』
佐山さんが言っていた言葉を思い出す。あの日私は、それを聞いて逃げ出したいと思った。その異常さから。彼女のような、彼の信者と呼ばれる存在に恐怖し、怯えた。
けれど、彼女は私よりも彼のことを分かっていた。少なくとも、理解しようとしていた。彼女の言う通りならば、彼は闇の中にいたのだ。