彼の家に行かなくなって数週間が過ぎた。その間彼と連絡をとることはなかった。道でばったり会うなんて、そんな都合の良いこともなかった。真っ直ぐ高校に行き、真っ直ぐ家に帰る。彼に会うまでは当たり前だった日常。改めて思う。私は普通の、ありふれた、何者でもない女子高生だった。非日常を日常に変えてしまうような彼の隣にいるだけの、ちっぽけな存在。

 あの時、私が間違っていたとしてどうすればよかったのかということを考えようとした。どうすればよかったか、なんて、そんなの決まっていたのだ。考えるまでもなかった。勘違いしなければよかったのだ。度々勘違いしないようにと思っていたのに、やっぱり私は勘違いしてしまっていたのだ。彼に好かれたいとか、離れたくないとか、そんなことを望んでしまうくらいには勘違いしていた。

 この数週間、何度もスマートフォンを確認した。彼から連絡が来ていないか、歌ってほしいでも、ココアを淹れてほしいでも、何でもいいから、私を必要としてほしいと思って。けれど結局、平凡な日常を受け入れることにした。彼に変な期待をしてはいけないと思った。私はそんな立場ではないと、思い直した。彼と一緒にいた日々を、頭の隅に追いやった。忘れ去ることなんて到底できないから、せめて、端に端にと追いやった。